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ハタサロと共に実践を開始。「ネイチャリー」の始まりに聞いた、農の可能性とは

「農のある暮らし」を求める根底には、それぞれが願う社会の姿がある。お互いのビジョンを尊重しながら学びあう場「ハタサロ」には第一期メンバーとして10名が集い、各自が自らの農的ライフスタイルを追求し始めた。

栽培に関する具体的な学びは畑コーチの長谷川晃さんに指導を仰ぎ、月に1度の実践を続けるメンバーたちは、共に学ぶ関係性と、新しい感性の開花を実感し、サロン参加の満足度は高まりを見せている。

「ハタサロ」メンバーのひとりで、アフリカ・ケニア産のバラを輸入販売する『AFRIKA ROSE (アフリカローズ)』を展開する実業家でもある萩生田愛(はぎうだ・めぐみ)さんも、2020年、都心から生まれ育った自然豊かな郊外へと移り、ハタサロと並行させながら自分らしい実践も始めている。

同じく「ハタサロ」メンバーの小島 寛之さんと一緒にスタートさせた「ネイチャリー」を訪ねて、おふたりの構想などを聞いていると、壮大な思想と地道で着実な行動が交差し、まるで Think Globally, Act Locally(世界規模で考え、足元からの行動を)そのものだった。

“ネイチャリー”、はじまりのとき

愛さん  ネイチャリーは、始ったばかりのプロジェクト名でもあり、同時にこの家庭菜園の呼び名でもあるし、あと将来的にはこの活動の世界観を表す呼び名でもあります。わたしの思いをよく理解してくれた小島さんが名付けてくれました。

小島さん  ネイチャリーは、「Nature(ネイチャー)」と「Sanctuary(サンクチャリー)」の造語です。「自然」とか「あるがまま」といった世界観をNature(ネイチャー)という言葉で表したいと思って、そこに、もう1つ活動の概念的なものも加えたいと考えているときに、Sanctuary(サンクチャリー)という言葉が思い浮かびました。この言葉に含まれた「コミュニティ」や「聖地」といった意味合いと重なることに気がつきました。自然そのものはもちろん、自分たちを含めて、関わる人たちの尊厳が守られる場にしたいと考えています。

愛さん  どんな形であれば皆のためになるか、現実的な運営方法などはまだまだ考えている真っ最中ですね。今のところ、わたしたちの他に、うちの会社の環境部の若手スタッフやご近所のママ友が参加することもあります。

そう語るおふたりはとても楽しそうだった。詳しくは別記事でも後述するが、ハタサロの長谷川(通称ハッセ)コーチに直接、相談と指導を仰ぎ、愛さんの自宅の庭を菜園に変えた。進む未来を想定しながら土に触れていると、ぼんやりしていたものの輪郭が見えてくるようだ。

そもそも「ネイチャリー」は、同じコーチの指導から派生したとはいえ「ハタサロ」以前からお互いを知るふたりが、愛さんの意識の変容について語るうちに立ち上がっていたという。

モヤモヤした、自分自身の在り方

愛さん  畑をやりたいとか農業を始めたいと思っていたわけではないんです。会社の事業が成長して新しいフェーズに差しかかった頃、わたし自身の生き方に関して考えることが増えました。もっと社会に貢献できて、自分自身も輝けて、また、無理することも犠牲もなく、周囲の人も未来の世界も幸せになる生き方を実現するには、どうしたらいいのかと考え続けていたんです。
解決策として当初は、ゴミ問題を解決すべく、生ゴミ回収と堆肥化を事業にしたいと思って構想していました。ただ、考えに考えて事業計画を立てようにも、現状の制度の中では事業として成り立たせることが難しいことが分かりました。しかし調べていく中で知識も広がり、ゴミを循環させることや、その先にある農や食といった根源的なものに興味が強まっていきました。

愛さんが代表を務めるアフリカローズでも「環境に関する活動」として、エコバッグの推奨やグリーンエネルーへの転換に加え、CO2の排出に伴う温室効果ガスを懸念し「カーボン・オフセット料金」の導入や、ケニアの植林活動など様々な取り組みを行っている。

愛さん  土の中には宇宙の星よりも多くの微生物がいることや、おいしいリンゴのために農薬をやめることなど、自然の成り立ちや考え方がわたしにとっては新鮮で、新しい感受性が開いていくような気持ちになったんです。人生について考えていくことも、有機的な人間関係の模索も、誰も犠牲にならずに未来を良くするためにも、全ては農に関わることで実現に近づけるような気がしました。
それまで食に関してこうした捉え方をしたことありませんでしたが、もっと学びを深めていきたいと思ったんです。農をツールとして活かし、お互いを高め合えるコミュニティの延長には、自分を含めてみんなの人生が良くなるんじゃないか、と想像しました。

小島さん  僕は僕で、そうした愛さんの変容を聞いている中で、既成の菜園教室のようなものとも違った何かを探し始めました。栽培については素人だけど、個人の暮らしに農があって、かといって出荷する農家を目指すわけでもない人が、もっとカジュアルに参加できるような場所を探しているとき、ちょうどハタサロの立ち上げを知ったんです。主宰の塚本サイコさんは経営者でありピアニストでもあって、性格や感覚的にも愛さんと合うだろうなと直感がありました。そしたら本当にピッタリでしたね。

愛さん  それまでも小島さんには色んな方の活動を教えていただいていたのですが、ハタサロについて聞いたときは瞬時に、「これ良いじゃん!」て反応しましたね。すぐに参加を決めてハッセコーチにも紹介いただき、ハタサロでは座学や実践を行いつつも、うちの家庭菜園の計画について相談し始めました。まだネイチャリーの名前ができる前からハッセコーチにお世話になってることになります。

最初から、環境や無農薬野菜に興味がなくても良い

愛さんはこの夏、「世界一幸せな国」として知られるデンマークへの短期留学を控えている。取材中にも、現地での4ヶ月の間に様々な最新事例を吸収することに前向きで楽しみにしていると聞かせてくれた。熟慮の結果、最愛の息子さんは信頼する夫と両親に任せて、自らの修養を積むつもりだと言う。その間、ハタサロでの学びは録画などで自習し、ネイチャリーの管理は小島さんたちにお願いする。そして何より、ネイチャリーの具体的な姿を考える時間にもなりそうだ。

愛さん  ネイチャリーはまだ未知の可能性を抱えている段階です。デンマークでサステナブルな社会を体験することは、きっと大きな意味をもつと思いますし、もちろんハタサロでの学びも続けています。
事業計画を引くときは、ビジョンを描いて賛同してくれる人たちが集まってくれて実現させていくのですが、ネイチャリーの場合は、何かを「目指す」というものでもない気がしています。みんなの存在そのものがあるがままいられる場所であって、わたし個人としては循環が広がっていく世界を実現させたいですが、地球環境や農業や無農薬といったわたしの目指すものに全く興味がない人たちも一緒に何かできるようにしたいんです。
例えば、自宅からすぐの家庭菜園に野菜があったら楽、とか、食べたらおいしいから幸せ、といっただけの動機の人たちも一緒にコミュニティになった方が、みんなも自己実現しますよね。個人の在り方自体がそのまま受け入れられる世界線をイメージしています。

小島さん  僕自身は今、ネイチャリーとハタサロの両方に関われていることに楽しさもあるし、そもそもコミュニティをゼロから作り上げることが初めての経験なので、貴重だと思っています。ネイチャリーのような存在が各地にできれば、きっと良い社会になるだろうし、またそれぞれが横に繋がることも大事ですよね。実はもうこのエリアで新規就農者やコミュニティを作ろうとしている人たちの存在も調べていて、交流が広がることも楽しみにしています。

個人の思いが共鳴し合うハタサロ自体、将来的には津久井を飛び出す可能性は高い。愛さんたちのネイチャリーと同様に、農のある世界観を展開するメンバーが増えていくことを想定しているからだ。

気候変動が気候危機として加速する昨今、土壌を回復させて自然の成り立ちに沿ったリジェネラティブな生き方を目指す、静かな目覚めこそがこの世界を鮮やかにしていくことだろう。

後編「コーチング付きでオーダーメイドの畑作り。未来は、農を軸に多様になる」もご覧ください。

撮影;羽柴和也

取材;やなぎさわまどか
ライター/ 編集/ 翻訳マネジメント
株式会社Two Doors代表。10代からの留学と海外生活を経て帰国後、グローバル企業における多言語メッセージの発信をマネジメントするコンサルティング企業に勤務し、言葉がもつ力の奥深さを実感する。東日本大震災を経て独立後、食、農、環境問題をテーマにした取材執筆で複数媒体に寄稿するほか、企業や団体での制作や広報を担当。そのほか関心領域はジェンダー、人権、政治、映画など。

ハタサロ畑コーチ;長谷川晃
サッカーコーチから農家に転身し就農10年超え。八割を固定種在来種で栽培し種採りも行う。シリアでのサッカーコーチ時代、子どもたちがお腹が空いて動けないという現実を目の当たりにし食の大切さに目覚め帰国後農家に。同時に、サッカーで旅した世界中の地球環境の劣化や砂漠化などを体験したことで自身の農家としての役目を導き出す。哲学を共にするアウトドア企業パタゴニアの理念に共感し、環境を再生する農業に取り組み、農業によって地球環境を再生しより良くしたいと考えている。

Riceball.Network過去記事にて、やなぎさわまどかさんが手掛けた長谷川晃氏のインタビュー。
SALDA REVOLUTION 社会に向けた価値創造。「サラダレボリューション」が目指すものとは 前半 / 後半

 

 

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