個を解き放つ組織変革をマインドフルカフェ®︎ からVOL.2
前回のインタビューではマインドフルカフェ®が自分の「とんがり」に気づくプログラムだとのお話が聞けました。また、それが「自己組織化」の一歩目なんだと言うことも。
さらに、その先には「創発」という現象も起こるようです。これは、どんなことなのか?
AKI(野口正明)さんの著書『組織の未来をひらく創発ワークショップ-「ひらめき」を生むチーム30の秘訣』をもとに、今回は創発を中心テーマにお話を聞きました。
■チームの「とんがり」こそが創発!
―著書を読ませていただき、マインドフルカフェ®が個人からの変化を促すものなら「創発ワークショップ」の方はチームからのアプローチで個人も変わっていくように感じましたが、
AKI:個人とチーム(組織)は、いつも相補関係にあります。僕の場合、個人からアプローチする人財開発と、組織からアプローチする組織開発を、同時並行的に活用することが多くなりましたね。
―この本にある創発とはどんなことですか?
AKI:創発はそもそも複雑系科学の概念で、個々の要素の掛け合わせによって、それらの総和を超えるような新たな性質が立ち現れる、ということなんです。それが、自然科学だけでなく、人と組織の世界でも起きると。
もう一度、前回の話をおさらいしておきましょうか。マインドフルカフェ®で自分自身の「とんがり」に気づくと言いました。「とんがり」とは、私の在り方から発動する「らしさ」の部分です。個々人のありのままの在り方はそもそも固有で、多様です。
個を解き放つ組織変革をマインドフルカフェ®︎ から
個々人のとんがり要素を組織の中で、上手に解放していくと、自律的によりふさわしい秩序が形成されるというのが「自己組織化」ですね。そのプロセスで、これまでは見られなかった新たな発見や動きが出てくることが「創発」。言わば、チームの「とんがり」です!僕の本ではその実例をストーリーで示しています。
―とすれば、創発が起こる条件として「多様性」は重要ですよね。日本の企業にはあまり多様性を感じないのでは?
AKI:概ねそうかもしれませんね。でも、それは多様性がないのではなく、多様性を必要としてこなかったと僕は解釈しています。いかに早く大量に品質の安定したものをつくるかが勝負だった時代には、個を消すというのは、まあ合理的だったということもあるでしょう。
■自分の「在り方」は代替不可能
―AKIさんが創発のワークショップをやるときに、集まった人達は、最初は個性みたいなものを隠しているのですか?
AKI:仕事の要素からダイレクトに入って行くと、同じ会社や職場にいる人にとっては目指しているものが一緒という前提があるので、違いが出にくいのです。
組織の中の一人ひとりが違っていいんだ、いや、違っていた方がむしろいいんだっていう感覚を持ってもらう環境を整えるということに重点を置きます。
―それを起こす方法論とかあるんですか?
AKI: マインドフルカフェ®の第一話は、「自分史」によって、これまでの自身のストーリーを内省的にふりかえって、自分らしさにつながる出来事やキーワードを見つけに行くのですが、創発ワークショップでも最初は同じようなアプローチです。
―自分史とかで一度、自分をふりかえるみたいなことは、どんな効果があるんですか?
AKI:忙しい日常の中ではなかなか意識しにくい自分らしい在り方を再発見すると言うことです。そこまで行くと、他者には代替が不可能な自分が認識できて、自尊感情が増します。
組織の未来をひらく創発ワークショップ-「ひらめき」を生むチーム30の秘訣
■在り方に照らして仕事を見直してみる
―それは、創発が生まれる素地づくりには不可欠な仕掛けなんでしょうか?
AKI:その通りです。それがないと掛け合わさんないです。思いもよらなかったアイデアが出るためには、同じものがいっぱいあってもダメで、質的変化を起こせないと意味がないと思っています。
そのためには、一度自分の在り方に還って、それを言葉にし、チームの中でお互いに認知し合った上で、各人の在り方に照らして、目の前の仕事や職場を見直してみるのです。すると、従来とは異なる化学変化が起きる可能性が出てきます。
―そういう意味ではチームでやるのは効果ありますよね。
AKI:そうですね。例えば、同じ営業職であっても、他者とのつながりを深めるような在り方を大事にする人と、営業活動の新たな意味付けをするような在り方を大事にする人では、自ずと顧客の課題の見方や接し方などが変わってくるでしょう。それぞれに見えていることを掛け合わせることで、顧客のリアリティが立体的に浮かび上がってきたりします。
■「カオス」をくぐらない結論は大したことない
―本のタイトルにもなっている「ひらめき」とはどんなものですか?
AKI:これまでビジネスの世界では、思考や論理が優先されてきました。その重要性は変わらないのですが、そこには含まれない直感や感覚のことです。「マインドフル」って、物事の新たな側面に気づくという意味合いがありますが、ひらめきを使うことで、同じものを見ても全然違って見えることがあります。なんとなく違和感を感じるみたいなことは、とても重要なサインなんです。
―ひらめきはどうやったら起こりやすいのですか?
AKI:やっぱり自分らしい在り方に還って、アンテナを張ったときに、パッと思い浮かんだものを大事にすることでしょうね。そして、それをそのままにしないで、言葉にしたり、ちょっと実行してみたりして、そのひらめきの確かさを実感してみるといいと思います。
―チームの場合は、それぞれのひらめきがぶつかり合うこともあるでしょうね?
AKI:そうなんです!それこそが創発が大好物のエネルギー源になります。普段は、仕事の効率性を優先させ、ぶつかり合わないような調整が無意識に働いていることが多いのですが、その蓋をガバッと開けることです。
―カオスですね?
AKI:「カオス」の状態をくぐることなく出てきたものは、経験的に大したものではないですね。何度も経験していると、これが起きるからこそ、きっとよい出口が見つかるんだと信じられるようになるんだけど。
だからぶつかり合いから起きるグジャグジャを大事にするんです。その中から立ち現れてくる道筋みたいなのがあるんですよ。それをどう掴むか!僕はそれを「文脈」と呼んでます。
■「文脈」紡ぐのはファシリテーターの醍醐味
―違う個性の人達で集まると偶然の一致もあるかもしれないけど、けんか別れみたいなことになりませんか?
AKI:なくはないと思うけど(笑)。でも、そこに「ファシリテーター」のお役目があるんですよ。言いたいことを言い放ってたら空中分解して終わってしまう経験は誰にでもあるでしょう。
そこにファシリテーターがいることで、カオスの中から新しい芽みたいなものを探しやすくなるわけです。たとえば、さっきの異なる視点を持つ営業の場合。Aさんは顧客とのつながりを大事にしたいので、見えていても、本質部分は伝えないようにしている。一方、Bさんはそれではお互いにとって意味がないので取引を失う覚悟でもズバリ言うべきだと。
どっちにも想いと理があるから、擦り合わない。かなり単純化して言ってますけどね。そこで、「本質を伝えて、つながりを深化させることは本当にできないものですか?」とか投げるわけです。無責任に(笑)。そんなところから新たな解が見え始めることもあります。
―その先は自分たちで考える?
AKI:そうです。僕には答えはわかりませんから。その仕事の専門家は彼らです。
―そんなプロセスを経て、自分たちで答えを見つけられたら、やる気も違いますよね?
AKI:そこが一つ、大きなポイントです。自分たちから湧き出てきたものだから、他者から提示されたものより圧倒的に入り込みやすいですよ。結果として僕の存在はあまり意識されないまま、自分たちでやったんだと実感できるのが最高のパターンです。
僕の師匠が、先日こんな言葉を教えてくれました。
”To be in the world and not of it”
その場にメンバーとともに在りながら、一方で、この場を俯瞰的に眺めていることが大事。
■創発と「対話」は不可分な関係
―最後に「対話」について聞きたいのですが
AKI:おー、そこに来ますかー(笑)!なんかぐるっと一周してきた感じだよね。
対話という言葉は世の中でとても安易に使われるんだけど、僕が一番気に入っている対話の定義は哲学者・中島義道さんので、古代ギリシャ時代に行われた全裸の格闘技に似たものだと。つまり、なんの武器も持たずに、対等の立場で、ただ言葉という武器だけを用いて戦うこと。そこでは、一人ひとりが自分固有の実感・体験・信条・価値観にもとづいて何事かを語る世界。だから、予定調和なんて無縁なんだよね、本来は。
―そこにも創発の要素がありますよね。
AKI:対話のないところに、創発は成り立ちませんよ。
気まぐれで、不確か、込み入って、あいまいな環境で、絶対的な答えなどありはしません。その典型と言えるのが、SDGsをはじめとするサステナビリティの課題でしょう。経済合理性を中心に考えればなんとかなった世界から、環境や社会という、とめどなく広い世界にまで視点を向けなければ対応はできない。
複雑に絡み合った統合的課題について、一人ひとりがまさに自分自身の人生を背負いながら真剣勝負の対話を重ね、集合知としての最適解を導き出していくことが求められるのです。最高に面白い時代ですね!
ソニー本社で開催されたマインドフルカフェのレポート
Being into Doing! マインドフルカフェ®が有機的につなぐ個と組織、その先の社会とは?
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とんがりチーム®研究所 主宰 AKI(野口正明)
日・米の大手企業にて商品開発、生産管理、人事・人財開発の仕事を経て、組織風土改革支援のスコラ・コンサルトでプロセスデザイナーとして腕を磨く。約30年のビジネス経験を積み、2017年末にとんがりチーム®研究所を創業。1965年福岡市生まれ。早稲田大学政経学部政治学科卒業。NPOふじの里山くらぶ副理事長。
インタビュー、文 野崎正律
投稿者プロフィール
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マインドフルカフェ®︎ ナビゲーター
一人ひとりの想いや持ち味が、縦横無尽に重なり合うことで、組織のとんがった未来が生まれる “創発”がライフワーク。日本と米国の大手企業にて人事マネジメントの仕事を経て、2006年より対話型組織・人財開発コンサルタントへ。現在はフリーランスとして企業、自治体や地域コミュニティなどの創発支援を続けている。2013年末に自然とアートに恵まれた里山・藤野へ移住。著書『組織の未来をひらく創発ワークショップ』(経団連)等。とんがりチーム®︎研究所主宰。
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