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小野寺愛のESYA報告(3)「エディブルスクールヤードの菜園紹介 〜自然に夢中な子どもを育てるために〜」

こんにちは。エディブルスクールヤード・ジャパンの小野寺愛です。報告第3回目となる今回は、 エディブルスクールヤードの菜園授業を紹介します。

菜園は、どんな場所?

まず、1エーカーのガーデンを、写真でご案内します。

edible school yard

校舎側のエントランスから菜園に入ってまず目に入るのが、こちらの「ラマダ」。クラスの皆の顔を見ながらその日の気持ちなどを「チェックイン」して、その日の作業概要を教わる、大切な場所です。どの授業でも「耕す」「コンポスト」「桑の実とバジルの収穫」「鶏の世話」など3〜4つの作業が用意され、子どもたちはそれぞれに自分の作業を選び、必要な道具を道具小屋に取りにいきます。

edible school yard

こちらが道具小屋。かつての生徒たちが、日本の宮大工の技術で、釘を使わずに建てたものだそう。小屋の中は空間をゆったり使って整然と片づいていて、写真のある場所に道具を戻す、赤のシールのあるものは赤のラックに、など、初めて訪れた生徒でもなにがどこにあるかわかるようになっていました。

edible school yard

道具小屋の隣には、鶏小屋が。鶏が安心して卵を産める暗くて小さな部屋や、放し飼いにするときの畑への出入り口など、工夫もたくさん。鶏がいることで、畑作業には最初関心がない生徒たちも菜園が大好きになるそう。

edible school yard

畑には、鶏に雑草を食べてもらい、糞を落としながら耕してもらうことができる「チキントラクター」もありましたよ!

edible school yard

鶏小屋と道具小屋の屋根に降る雨は、一カ所の雨樋を通して、すべてこちらの雨水タンクで収穫。畑の水やりはここから行われます。

edible school yard

雨水タンクの裏側では、ミツバチも飼っています。ミツバチは、畑の生態系を教えてくれる先生。理科の授業とも連動してその生態を学びながら、とれるハチミツもちゃんと調理に使って、いただきます!

edible school yard

道具小屋のすぐ右手には、Mother Oak Tree 母なる樫の木が気持ちのいい木陰をつくり、藁を束ねたブロックが椅子状に並んでいて、「ラマダ」に次ぐもうひとつのアウトドア・クラスルームになっています。

edible school yard

樫の木の反対側には、黒い布をかぶった山が4つ。こちらは、コンポストです。場所はとりますが、箱に入れるよりも子どもたちにとって混ぜたり状態を見たりするのが楽だという理由で、いまはこのかたちに落ち着いているのだそう。生ゴミとわらを混ぜ込んで山にして、8週〜10週で堆肥になります。4つの山を作っているのは、発酵と分解の段階を比べてみることができるように。完熟堆肥は、ここから畑に運びます。

edible school yard

ガーデンには、楽しい仕掛けがたくさん!トマトや豆科、這って育つ野菜には、ティピ状の添え木を。ここに作物が育ってくると、緑のティピができます(写真左)。また、しだれ桑(写真右)はこんもり丸く育ちます。内側の枝を少々剪定してやれば、子どもたちは緑の屋根の中に入って収穫。他にも緑のトンネルもあり、菜園の中で想像力を膨らませたり、自分のスペースを確保できる工夫がたくさんありました。

edible school yard

こちらは温室です。冬の間に種まきした苗をここで育て、毎年5月の「母の日」前日の土曜日には菜園を地域に開放し、「プラント・セール」を行って、苗の販売をします。子どもたちが販売する苗の他、地域のレストランもフードトラックを出し、卒業生の高校生がブラスバンドの演奏をする、1大イベント。毎年ここで稼ぐ150〜200万円は、菜園維持の大切な資金源にもなっています。

edible school yard

温室から少し歩くと、レストランも顔負けの立派なピザ釜が!400度まで上がる本格的な窯で焼いてくれたピザやジャガイモは、絶品でした。

edible school yard

最後に、忘れてはならないのがこの、アウトドアキッチン!屋根つきで、シンクも2つあり、菜園授業の最後に必ずつくる「テイスティング」の時間の準備にも大活躍です。シンクにおく洗剤は100%自然に還るもの。流れるパイプは畑へと流れ込むようになっていて、水も無駄にしません。

ジェフの教育哲学

さて、いま、ガーデンのヘッドティーチャーをつとめるジェフは、もともと農業が専門の人。8年前、初めてこのガーデンに来たときには、広すぎる通路、間がありすぎて効率の悪いデザインを見て、「収穫量を上げるために、僕にできる仕事は山ほどあるな」と感じたそうです。ところが、その思いは、子どもたちと一緒にガーデンで活動をはじめて1週間で打ち砕かれました。

edible school yard

「広い通路があれば、鍬やスコップを振り上げる子どもたちに、いちいち “危ない!” “ダメ!” と声をかけなくても安全確保できます。5〜6人のグループで円になって、互いの顔を見ながら話し合うことができます。

 円形の “レインボーガーデン”は、子どもたち自身のデザインによるものでした。自分がいま耕しているこの畑の向こうには何があるんだろう。畑のデザインが入り組んでいて少し先が見渡せないことも、子どもの冒険心をくすぐります。1エーカーでも、子どもにとっては小宇宙です。

 ここは、大人からの指示を受けなくても動きやすく、冒険心をくすぐるみんなの菜園です。これまでここで働いたスタッフの小さな気づきのすべてが、この菜園にはしっかりとデザインされていたのでした。収穫量のことなど気にした自分を、すぐに恥じました」

edible school yard

これが菜園の全体像。収量を考えたら合理的でないデザインは、実は子どもたちのためのものでした。

そんなジェフがエディブル・スクールヤードで働きはじめて、早8年。その間に彼が得た教育哲学は、教育者はもちろんのこと、子どもに関わるすべての大人たちで聞きたい示唆に富んでいます。インタビュー映像をご覧ください。

「Geoff’s Philosophy in Education – ジェフの教育哲学(字幕入り)」
https://youtu.be/s5bS2oXjxsM

「大人がこちら側に立ち、子どもが前を向いて座る。子どもが空っぽのバケツであるかのようにとらえ、大人の頭の中にあるものを注ぐ・・・そんなやり方では学ぶことができないこと、子どもたちのほうはとっくにわかっています。僕たちは、もうその旧来型の教育を卒業したい。子どもに教えるというよりも、共に手を動かし、共に感動するファシリテーターであろうとしています」 

edible school yard

「作業の合間の移動時間や、最後のチェックアウトをするときなど、友達同士で、こんな質問を使って感想を共有することもあります。

 『今日のガーデン作業では________に気がつきました。
今日のガーデン作業で_________を不思議に思いました。
今日のガーデン作業で、_________を思い出しました。』

子どもにもわかるように簡単な言葉にしましたが、 この3つの文章は、1)観察 2)考察 3)システム思考(自分の日常に置き換えて応用を考える)、つまり科学者の視点なんです。十人いれば、十人それぞれの観察、考察、応用が出てくる。友達はそんな風に感じるのかという気づきから、答えはひとつじゃないということが体験的にわかるようになればと考えています」

「教える」ことを卒業し、「共に手を動かし、共に学ぶ」ための場作りをする教師たち。しかも、その場作りへのこだわりと、スタッフ同士のフィードバックの文化は徹底的にプロフェッショナル。この哲学が世界中すべての親たち、教育者たちと共有されたら、と願わずにいられません。

さて、最終回となる次回は、菜園と切っても切り離せない、キッチンの紹介です。お楽しみに!

【小野寺愛のESYA報告】
(1)「IT’S TIME FOR EDIBLE EDUCATION – 今こそ、エディブル教育を」
(2)「もっと楽しく、風通しのいい職場をつくるために – ESYの組織論」

文・写真 : 小野寺愛


aionodera小野寺愛(おのでらあい)
一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」アンバサダー

旅とウィンドサーフィンに明け暮れた学生時代、外資系証券会社勤務、国際交流NGO「ピースボート」勤務、船上のモンテッソーリ保育園「ピースボート子どもの家」運営を経て、現在、「子ども×自然×地域活性」をテーマとする一般社団法人「そっか」の共同代表。また、一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」のアンバサダーとして、全国にエディブル・エデュケーション(栽培から食卓までのつながり全体をいのちの教育と位置づけて行う食育)を広めている。三浦半島では「パーマカルチャー母ちゃん」として、小学校での大豆教室、映画上映会や、農園ピクニックなど、パーマカルチャー的暮らしを体験する場をコーディネート。逗子市立久木小学校では地域の親子と放課後菜園を運営し、農園併設型保育園「ごかんのもり」では関東全域から参加者を募り、実践型のワークショップを運営している。教育プログラムコーディネーターとして地球を9周し、のべ約6000人の人々と共に世界を旅する中で出会った「平和は子どもからはじまる」が信条。すべての大人が「私の子どもから私たちの子どもたちへ」と発想と行動を転換することがこれからの社会の鍵だと信じて、国内外で人のつながりを紡いでいる。1978年横浜生まれ、上智大学外国語学部英語学科卒業。神奈川県逗子市在住、三児の母。

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