まだ言葉を理解できないはずだと幼児に本音を聞いてもらうことについて。

うちの父は 幼少期のわたしに
よく本音を 聞かせてくれました
きっと 誰にも言えない秘密です
父は わたしがまだ 幼くて
言葉を理解してないと 踏んでいたのだ

たしかに 当時のわたしは
父の言うことを 理解していませんでした
しかし 不思議なもので
人間の脳には 人間の心には?
録画機能のようなものがあるみたいなのです

のちの人生で ふとした瞬間に その
かつての動画が 再生され始めるのです
そのたびに わたしは動画の内容に驚き
癒されたり 笑ったり
ひとの人生というものの奥深さ
ドラマチックさに 胸打たれるのだ

父が明かした本音のひとつは
こちらです

「 お父さんはね
お年寄りが大嫌いなんだ
○○○○ア○ネとかって 思ってる 」

幼子に問いかけるように ゆっくりと
しかし 怨情を内包した父の肉声は
彼の革靴と わたしのズックが
交互に枯れ葉をかき分ける 秋深い
井の頭公園の地面とともに 録画されました

そして そののち わたしが三十歳のとき
なんの前触れもなく この動画はリプレイされるのだ
もちろん 台詞の意味は理解できました

当時 わたしは 父と母を看取ったあとで
どこかに向かう 途中だったんだと思います
「バス停のベンチにお年寄りが座っているな…」
そんなふうに 漠然と思った瞬間に
この不謹慎な動画は 配信されました

すると 意外なことに
わたしは このときの父の言葉に 救われてしまった
人知れず 気持ちがらくになりました
心のどこかで 同じことを感じていたから?
たぶん 違うと思います
この気分を 例えるのなら

一方が 泥酔すると
もう一方は 酔いが冷めてしっかりしちゃうとか
相手が ひどく感情的になったから
こちらは やけに冷静になっちゃう みたいな
そんな感じだったと思います

考えてみれば 父も
早くに 両親を亡くしていました

井の頭公園の 父は三十代で
エナメルの白い靴を履いて
格好つけて 粋がっていたのに
心のなかでは 親が恋しかったのだ
父から突いて出た 乱暴な言葉
わたしも よくやります
この不器用は 遺伝子由来だったのか
わたしは すっかり酔いが冷めて
吹き出してしまった

ここで 父の名誉挽回のために追記すると
父が他界したあと
とある版画作家さん(92歳)から
作品のように美しいお手紙をいただきました

” 思いきった年寄りの旅行で困惑していたところ
お父様には実の息子のように親切にして頂きました ”

この素晴らしい
夢のような お手紙を読んでいるときも
件の不謹慎動画は わたしのなかで再生されました
このときの父は 五十代でした

意味がわからないだろうと 安易に
子供に本音を話すと
大体は こういうことになります
その後 何十年も掘り起こされて
いかに善業を積もうと 力を持ちません
みなさま ご用心を

 

 

投稿者プロフィール

村井砂織
村井砂織
白砂糖やNa塩、食品添加物不使用の有機スパイスシロップ屋 "ほっぺた” 店主。ライター。エディター。家族の闘病生活や8年間のカフェ営業、幼少期からの体調不良の改善を通じて、体を温めること、食の大切さを実感。体を温めることで起こる自然治癒力、感情や記憶、自己愛の発露に興味を持っています。ピアノ弾き語り、散歩、うたたね、小鳥、日本酒が好き。チネイザン(氣内臓)勉強中。

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