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SALAD REVOLUTION・Vol 2 社会に向けた価値創造。「サラダレボリューション」が目指すものとは・後半

サラダレボリューションにおける野菜について聞いた前半から引き続き、後半ではその野菜をつくる長谷川さんにもお話を聞く。

■次世代を思う「食」のあり方

長谷川さん自身はどんな思いで野菜をつくっているのだろうか。農家になってちょうど9年という長谷川さんに聞いた。

 長谷川さん: 僕はもともとサッカーコーチとして、当時まだ戦争が始まる前のシリアで子どもたちにサッカーを教える仕事をしていました。砂漠帯ということもあって、食料が不足がちのシリアでは、サッカーするにも「お腹がすいて動けない」と言う子どもたちがいたんです。そこでまず、お腹を満たす食、身体をつくる食を確実なものにしなければいけないと実感しました。

(帰国後にコーチ職を断って農家になった長谷川さんのお話はこちらのインタビューにも掲載)

ですので、普通にこれまで通りの農業をするんだったら既存の農家さんたちにお任せする方がいい、僕は後発だからこそできることをしたいと思っています。シリアから帰国後、行政が運営する農業学校で学んだこともあって、いろんな立場の農家がそれぞれ一生懸命に取り組んでいることを知っています。僕自身も不耕起栽培、自然栽培、有機栽培といった様々な農業のあり方にチャレンジしているからこそ、単純に栽培方法だけを判断されることには抵抗があって、サイコさんのように、広く大きな食の在り方を問うことに共感できました。

 実際僕も、「農業を通して人も地球も豊かにする」という思いで長谷川農園をやっています。スケールの大きなビジョンをもって、そこから日々の作業に落とし込む。どんな栽培方法をするかはあくまでやり方や手段の話ですから、なぜここに長谷川農園が存在すべきなのかという大きな目的を念頭においています。といってもさほどかっこいいことばかりではなく、現実は草刈りだったりしますけどね(笑)

 現在、農地の一部だけを不耕起栽培とし、無肥料・無施肥で固定種・在来種を中心に野菜をつくっているが「将来的にはもっと不耕起栽培を増やしたい」と考えているそうだ。タネを土におろす長谷川さんを起点とするならば、終着地となるのは消費者。彼らが畑に来てくれることについてはどう思うのか。

 長谷川さん: すごく嬉しいです。始まる前に少し畑のことや農家になったきっかけをお話しさせてもらうのですが、皆さんとても真剣に聞いてくださるんです。農業の姿を伝えられた実感がもてるので、とてもありがたいですね。

また、職業は関係なく、少しでも現在の環境や社会に意識を向けている方は、農業についてあまり知らない状態で来ても理解が早い。そこで、畑に来る前にどんな本を読んだとか、何に関心があるかによって、農のあり方に繋がるんだと知ることができ、僕自身も新しい視点をもらっています。

以前、参加くださった方から「タネを採るのは種子法で禁止されていませんか?」という質問をいただいたときも、食に意識を向けてらっしゃる方がいることを実感しました。確かにF1種はタネ採りをしませんが、それは品種登録してその品種自体の個性やブランドを守る意味が大きいんです。逆に、固定種・在来種は次世代にタネをつなぐことで守られるのでタネ採りまでしています。

僕は、F1種が良いとかだめとか、固定種は良いといった議論も違うと思っているんです。種苗会社にも研修に行ったことがあるんですが、タネを何代も交雑させて新しい品種を生み出す苦労は並大抵のことじゃない、プロによる研究の成果です。10年単位で時間を掛けて、たくさんのリソースを費やした努力は、この社会のあちこちで誰かを助けている事実を忘れたくない、というか、簡単に否定することに疑問を感じるようになりました。

■口に運ぶことが「思い」も運ぶ、食の効果

都心を中心に、土から離れた環境で働く人は多い。毎日何かしらの食事を口にしているはずで、おそらくほとんどの人が、土の上で野菜が育つ大切さも知っているはずなのだが、そんなこともやすやすと飲み込んでしまうのが現代社会なのだろう。

では、サラダレボリューションに参加したビジネスパーソンたちは、どんな学びを得るのだろうか。

 長谷川さん: 畑で皆さんと話したり食事をしながら聞いてみると、個人の中に化学反応みたいなことが起きていると感じますね。来る前に思っていたことや疑問を抱えていても、畑で成長する野菜の命に触れることで、何かしらの変化が起きて、納得できるかたちに落とし込めるような。スッキリした表情で帰られる方が多いです。

また、普段とは違った形で横にいる仲間とコミュニケーションを取るので、関係性を深めることになるみたいですね。

 塚本: そうですね。土に触る、野菜を食べる、といった五感をフルに使ったあと、最終的には五感を超えた、体内での喜びに繋がっているからだと思うんです。特に、畑に来る前にうちが提供した野菜に感動したことがある方はなおさらで、”あの野菜”の畑、というスペシャル感と、自分の足を運んで繋がる体験は、感情や言語化を必要としない本質的な喜びとして残るようです。

 食の大切さを頭でいくら理解していても、多忙や惰性を理由にして優先順位はすぐ下がってしまう。だからこそ感覚的に、本質的な価値を実感する機会が重要なようだ。

 塚本: 日頃あまり意識せずに食事を済ませていると、暮らしの中で「気づく」ことにすら無意識になります。実際、都市部にいると「気づく」ことや「気に留める」という機会がなくても暮らしが成り立つんです。でも自然の中にいると、あちこち気に留まることがたくさんあるので、繰り返しているうちに「気に留めること」を体が思い出してくれる。その感覚を自分の中に持って帰ることで、普段の仕事や暮らしにも「気に留める」ことが増えていきます。

自分の中にフィードバックすることが増えると、社会を見る目にも変化が出てきて、何かの拍子でいつか「あー、こういうことか!」とブレイクスルーする瞬間がくるんです。

他人軸ではなく、自分のなかで変化が起きると、日常の光景も見違えるようになるんですよね。こうやって言葉にするとすごい変化のようですが、きっかけを得たあとは皆さん個人で進んでいらっしゃるようです。私たちがしていることは、きっかけとなる小さな「タネ」をお渡ししてるような感じですね。

食を見つめる体験は、個人の心に変化を引き起こす。そんな二人の話を聞いていたら、個人の集合体である社会も、変化する人が増えることで良い方向に動き出す気がしてきた。環境や社会問題はとてつもなく大きな壁に感じられるが、その壁を構成する要素の一つひとつは人がもたらしたこと。自然を感じて、自分に落とし込む。この実践を無理なくできることが、優しくも確実な革命を起こしている。

 

長谷川晃

長谷川農園代表、(相模原)サッカーのコーチから農家に!就農9年目、海外でのサッカーコーチ経験にて、シリアの子どもが「お腹がすいてうごけない」と言う声を聞いて食の大切さに気づき、帰国後農家に。畑は7つあり各畑で不耕起栽培畑、緑肥栽培畑、植物性栽培畑と分けて栽培している(全体で約1ヘクタール)地球環境や地域との連携などを日々模索しながら農業をおこなっている。

 


やなぎさわまどか(ライター・編集・翻訳ディレクター)

神奈川県出身。ナチュラリストの母の影響により幼少時代から自家製の自然食や発酵食品を中心に育つ。高校在学中から単身海外や留学など度々の海外生活を経て、帰国後は英会話学校の運営、のちに都内のコンサルティング企業に転職するも東日本大震災を機にかねてより望んでいた農的な暮らしへと段階的にシフト。現在は横浜から県内の山間部に移り、食や環境に関する取材執筆、編集、翻訳通訳のマネジメントなど。

 

 

 

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