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SALAD REVOLUTION・Vol 2 社会に向けた価値創造。「サラダレボリューション」が目指すものとは・前半

■土と太陽の恵みが染み込み、体と思考が変化しはじめる。

「刈った草を置くのはなんのためですか?」「どのくらいで発芽するんですか?」「肥料はどうしてますか?」

好奇心に目を輝かせたおとなたちが、思い思いの質問を言葉にする。思ったことがその場で口から飛び出してしまうのは、思いが「五感」を超えたときの特徴なのかもしれない。

神奈川県相模原市の北端に近い、津久井(つくい)と呼ばれる中山間部。合計1ヘクタールの畑で野菜をつくる長谷川農園では、この日、とある企業の農業体験研修として20名強の訪問者を受け入れていた。同農園の代表で有機栽培農家である長谷川晃さんは、参加者からの質問に一つひとつ答えながらも、この瞬間に心で感じていた思いを後でこう教えてくれた。

「農業のことを知ってもらえるって、すごくうれしいです。作業を手伝ってくれた結果よりも、畑で感じたことを持ち帰ってくれること、実際に来て感じてくれたこと、そのことがシンプルにうれしいですね」

この体験は、株式会社el&sが運営する新たな実践研修モデル「サラダレボリューション」のシーンなのだが、一体「サラダレボリューション」とは何だろうか。プロの農家を、一般の消費者が訪ねて実現したいのはどんなことなのか。
長谷川農園の長谷川さんと、株式会社el&sの塚本サイコ両者に話を聞いた。

■サラダレボリューションがもたらすものとは

塚本: サラダレボリューションは、食のつくり手である「農家」と、食を召し上がる「受け手」、そして両方をつなぐ料理の「つくり手」、この三者を循環するようにつなぐことを提案しています。

私たちel&s社は移動や宿泊など研修全体のコーディネートと同時に、料理をつくる立場となります。長谷川さんのような農家さんに協力いただき、召し上がる方々に、食がつくられる場所として畑を実体験してもらいます。太陽と土という環境下でできた野菜を、知って、触って、食べる、という一連の体験を通して、食と社会と自分を繋げてもらう作業をお手伝いしています。

ここまで聞いて、よくある農家体験ツアーだと判断するには早い。というのも、本事業を支える塚本の思いは、20年近く前から脈々と続いてきたものだからだ。

塚本: 私はこれまで実店舗を20年運営しながら食の世界を歩んできました。いつも、より自然なもの、無添加のもの、新鮮なもの、と常に良いものを提供できるように心がけ、ときにはお客さまと一緒に農家さんの畑を訪ねたり、店頭でも野菜を販売するなど様々なことをしてきました。どれもパートナーさんたちに協力いただき、おかげさまで多くの方に喜んでもらえたことに今も変わらず感謝しています。飲食店の営業は大変なことが多いのですが、ありがたいことにたくさんの方にご利用いただきました。

その一方で、「毎日の食をもっと楽しく豊かに変える手伝いがしたい」と願う気持ちが強まってもいました。外食をより豊かにしたいと思っていたことにも通じるのですが、みんなが毎日毎日繰り返している食そのものにもっとフォーカスしたかったんです。実店舗でも、農家さんたちと思いを共有できるように心がけてはいましたが、それも店舗運営の範囲に納めざるをえず、お互い”お取引先”という関係性は否めない。なるべく農家さんの負担にならないオーダーをしようと思っていても、もしかして逆にご迷惑をかけていないだろうか…と心配する気持ちも拭いきれずにいました。

 できればもっとしっかり、農家さんと共にありたい。農業における課題解決や社会のためになることはどうしたら実現できるのかと模索し続けていたんです。ちょうど津久井に隣接した藤野に住まいを移したこともあり、この地域の農家さんと協力しあえないだろうかと考えるようになりました。

el&s社は現在、数社の企業で社員食堂のサービスを提供している。それもただ運営しているだけにとどまらない。コンセプトへの理解賛同のもと、食材の入手や、いちから手作りする料理の提供を行うなど、さながら各企業の社内でオーガニックレストランを運営しているようなスタイルだ。

塚本: 私たちの思いを伝えるために、まずはお料理を食べてもらうことにしてるんですが、それはただの試食ともちょっと違う意味合いをもっています。

社員食堂に何を求めるかと伺うと「サラダバー」を希望される方が非常に多いのですが、お話を聞きながら、皆さんのイメージされている野菜と、私たちが日頃お取引のある農家さんのそれとは乖離があるなぁと感じることもあります。それは別に栽培方法の違いなどではなく、私たちが「野菜は、土と太陽による恵み」と前提しているところにあるんだと気がつきました。

長谷川さんをはじめ私たちがお付き合いある農家さんは、自然の循環に正面から向き合い、とても正直に野菜をつくられるかたばかりです。気候変動など、農家さんにとっては大変な時代だからこそ大地のお世話をしながら野菜をつくっている。彼らと共にあろうとすると、自然界の循環にある「旬」を活かし、野菜本来の味や力強さを優先させたいと感じます。その思いの具現化がわたしたちの「サラダ」です。

いろんな農家さんがそれぞれの思いをもって野菜をつくっているので、何かをジャッジすることはしません。また、自然のことは言葉で理解しようとするよりも感じるほうが早くて確実なこともあります。私たちの「サラダ」の概念も、食べるというアクションなしには語れないと気づきました。

実際、長谷川さんの野菜で旬のサラダを召し上がっていただくと、ひと口めから目を大きくして驚かれることも多いんです。皆さんの明るい表情を見れることが本当に嬉しいし、励みにもなる。「食べて喜んでもらえるって、すごい野菜だな」って改めて感じますね。

実際のところ、わたしたち消費者が手にする野菜の中にはいくつか分類がある。有機栽培や認定野菜といった栽培方法による呼び分けは一般的だが、「サラダレボリューション」における野菜の話を聞いていると、el&s社が扱う野菜はそうした呼び名でくくれないことがわかる。環境と社会を思う農のプロたちがつくった野菜、いわば自然の循環を実践する「農家と繋がった野菜」なんだと感じる。

 一口で驚くほど感じられる食味とは、何かのシールやマークで認定される定義を超えた味わいなのだろう。el&sのサラダは、ある意味で野菜のあり方を再定義している。

塚本: もちろんサラダでなくても同じです。サラダレボリューションの”サラダ”とは食材のアイコンとして用いた言葉なので、別に葉野菜である必要もないんです。長谷川さんの野菜は、本当、食べるとわかるけど、野菜そのものがおいしいので、調理もシンプルにできます。だからこそ、実際に土に触れた後で、ついさっきまで農作業をしていた場所で育った野菜料理を食べることは、「食と自分の繋がり」を強く実感させるんです。

後編では、農家である長谷川さんに、毎日畑に立つ思いについてたずねた。

SALAD REVOLUTION・Vol 2 社会に向けた価値創造。「サラダレボリューション」が目指すものとは・後半

 

長谷川晃

長谷川農園代表、(相模原)サッカーのコーチから農家に!就農9年目、海外でのサッカーコーチ経験にて、シリアの子どもが「お腹がすいてうごけない」と言う声を聞いて食の大切さに気づき、帰国後農家に。畑は7つあり各畑で不耕起栽培畑、緑肥栽培畑、植物性栽培畑と分けて栽培している(全体で約1ヘクタール)地球環境や地域との連携などを日々模索しながら農業をおこなっている。

 


やなぎさわまどか(ライター・編集・翻訳ディレクター)

神奈川県出身。ナチュラリストの母の影響により幼少時代から自家製の自然食や発酵食品を中心に育つ。高校在学中から単身海外や留学など度々の海外生活を経て、帰国後は英会話学校の運営、のちに都内のコンサルティング企業に転職するも東日本大震災を機にかねてより望んでいた農的な暮らしへと段階的にシフト。現在は横浜から県内の山間部に移り、食や環境に関する取材執筆、編集、翻訳通訳のマネジメントなど。

 

 

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