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小野寺愛のバークレー報告 (1)「It’s time for Edible Education – 今こそ、エディブル教育を」

edible school yard project
こんにちは。エディブル・スクールヤード・ジャパンのアンバサダー、小野寺愛です。

全米の教育現場で大きなうねりとなってひろがっている菜園教育「エディブル・スクールヤード」をご存知でしょうか。 いま、全米はもちろん、世界中にその流れが広がり、米国大統領夫人ミシェル・オバマさんまでがアリスさんの「美味しい革命」を応援して、ホワイトハウスに菜園を作ったのは有名な話です。

今年6月、その教育実践の研修を受けてきました。ここRiceBall Networkでも4回の連載でその様子をお届けします!

Introduction: まずは、自己紹介!

写真右が筆者、中央がアリス・ウォータース、左が同じくエディブル・スクールヤード・ジャパン・アンバサダーのガーデンティーチャー、早川雅貴さん

写真右が筆者、中央がアリス・ウォータース、左が同じくエディブル・スクールヤード・ジャパン・アンバサダーのガーデンティーチャー、早川雅貴さん

語り手の背景がわからないと、記事にも感情移入ができないものです。簡単に、自己紹介をさせてください。

私は神奈川県逗子市に暮らす三児の母です。いま一番関心があるのは、子どもといっしょに足下の自然で遊び、「みんなでつくって、みんなで食べる」こと。農業については初心者ですが、この春、9歳と6歳の娘が通う地元の公立小学校で、保護者有志と子どもたちによる畑をはじめました。

人として生きることの真ん中にあるのは、食べること。遊ぶこと。そして、集うこと。小学校に通う娘たちの様子を見ていて、教室で前を向いて座って、国語・算数・理科・社会を教わっているだけでは、大事なことは身に付かないと感じています。もし学校に「菜園」の授業があったら、そして「Farm to Table(栽培から食卓へ)」のつながりがすべての子どもの日常になったら、どれだけ人生が、そして世界が豊かになるでしょうか。

「菜園」授業をすべての学校の正式教科に。
「みんなでつくって、みんなで食べる」をすべての子どもたちの日常に。

どうしたらそれを実現することができるかを探りに、今年6月、米国バークレーへ行ってきました。全米および海外から90人の教育関係者が集まり、理論だけでなく、デモ授業も体験し、運営方法や地域との連携策まで学ぶ、実践的なトレーニングの場。ギュッと詰まった数日間で得た学びは、予想をはるかに上まわるものでした。

参加者をリラックスさせ、楽しい雰囲気の中で自然と「学びたい」と思わせる流れのデザイン。学校菜園を運営する知恵や、場作りの技術もさることながら、あたたかでオープンなESYのスタッフたちの「在りかた」から本当に多くを学びました。

日本でもこの流れが広がることを願いながら、今回、アカデミーで得た学びを Riceball Network でも共有させていただきます。

The Edible Schoolyard(エディブル・スクールヤード、以下ESY)とは?

edible school yard project

この取り組みは、1995年、カリフォルニア州バークレーにある公立中学校、Martin Luther King Jr. Middle Schoolの校庭ではじまりました。地元でレストランを経営するシェフ・アリス・ウォータース(世界的に知られるオーガニックレストラン、「シェ・パニーズ」のオーナー・シェフ)は、毎日通り過ぎる地元の中学校の荒廃に心を痛めていました。校長先生と話をして、「食が人をつくる」の見解で意気投合。スタッフ駐車場のコンクリートをはがして1エーカーのガーデンに変え、しばらく使われずに放置されていた食堂を改装してキッチンに。菜園から食卓をつなぐ学びの場づくりは、20年間でしっかりと定着し、今や大きな教育の革命として全米に広がっています。

広がる経済格差のなか、野菜からの調理をしたり、皆で食卓を囲んだりという経験がない家庭も少なくない中、栽培から食卓までのつながりを「命の学び」と位置づけたガーデンとキッチンでの授業は、子どもたちと地域に大きな変化を起こしました。

視察者が後をたたず、「ニーズがこんなにあるなら」と教育実践者の研修をはじめました。それが、今回私も参加した「エディブル・スクールヤード・アカデミー」です。

この研修プログラムは今年で8回目。今年は、全米および海外から参加した90人が5日間の研修を受けました。理論だけでなく、デモ授業を体験し、運営方法や地域との連携策まで学ぶ、実践的なトレーニングの場となっています。

世界中から集まった90人の参加者たち

世界中から集まった90人の参加者たち

ESYで大切にしていることは、大きく3つあります。

・指示を受けなくても子どもが自ら選択・判断することができる場のデザイン。
・「はじまり、中盤、終わり」のリズム。
・「教える」のではなく「共に学ぶ」姿勢。

これは、子どもに接するときだけでなく、私たちアカデミーの受講生に対しても同じ。あたたかでオープンなESYのスタッフたちの「在りかた」から、本当に多くを学びました。

エディブルスクールヤードの運営はどうなっている?

ガーデンティーチャーのジェフ

ガーデンティーチャーのジェフ

キッチンティーチャーのエスター

キッチンティーチャーのエスター

さて、学校の一角に事務所を構える非営利団体「ESYプロジェクト」でフルタイム勤務しているのは、ガーデンの先生4人、キッチンの先生4人、事務局スタッフ2人の10人です。それを支えているのが、学校に常勤の他教科の先生たち、という構造。そして、毎週必ず1度、1年間継続して活動に参加する50人の地域ボランティアと保護者たち、そして、20年の経験から練りに練られた素晴らしいカリキュラムがあります。

ESYでは毎年、ガーデン授業とキッチン授業でそれぞれ1冊ずつ、すべての授業を束ねたカリキュラムが更新されています。その分厚さ、なんと15センチ!

眺めているだけで楽しくなるような美しいビジュアルの授業内容のほか、「ESY Standards – ESY要綱」として、ESYとしての学習の目やすも体系化されています。 サステイナビリティー、栄養学、生きる力、学習、コミュニケーションの5つの領域で、中学校の3年間、全75回(×90分)の授業を通して子どもたちになにを習得させたいかが明文化され、それぞれの授業との対応表ができています。

edible school yard project

週に1度あるガーデンまたはキッチンの授業のたびに、子どもたちは自然に触れ、匂いをかぎ、収穫して、作って、食べる。仲間と相談し、協力し、共に手を動かす。それを3年間、全部で75回も積み重ねる子どもたちは、もう食べ物に夢中です。どんな食事を選ぶと、自分の身体、社会と環境にどんな影響があるかを自分の体験から知っています。食についての新しい行動指針を自分の中に携えた子どもたちが高校へと進学していくのは、希望ですね。

今こそ、エディブル・エデュケーションを

日本の理科の授業でも、トマトや大豆を育てます。でも、せっかく大豆を植えても、教科が「理科」であることに重きを置きすぎて、観察に終始し、双葉が出た、元気に育ってきた・・・と思ったら夏休みの間に枯れちゃった。ということも少なくありません。植えた種が枝豆を経てまた大豆になり、種取りした大豆を味噌にして、豆乳にして、おからを食べて、醤油を搾って…とできている学校は少ないのではないでしょうか。みんなで作ってみんなで食べること、つまり「育てるって楽しい。作れて楽しい。 わあ、おいしい!」を経て初めて、子どもたちの(そして先生の!)おなかの底に、本当に生きた学びが落ちるのではないでしょうか。

理科の授業も、ガーデンで。蜂が生態系のなかでどんな役割を果たしているかを学ぶのに、実際に育てている蜂の動きを観察し、ハチミツを採取。歴史では、米国先住民族の暮らしを学ぶ授業をキッチンで。先住民主食のコーントルティーヤを実際に粉挽きから作り、ガーデンで用意したハチミツと一緒にいただく。

理科の授業も、ガーデンで。蜂が生態系のなかでどんな役割を果たしているかを学ぶのに、実際に育てている蜂の動きを観察し、ハチミツを採取。歴史では、米国先住民族の暮らしを学ぶ授業をキッチンで。先住民主食のコーントルティーヤを実際に粉挽きから作り、ガーデンで用意したハチミツと一緒にいただく。

そんな「教科」を超えた畑から食卓への学びを、日本でもすべての子どもたちに届けたい。そのために、今回の研修会での学びをここに共有しようと思いました。もし、これをきっかけに、すでに日本でも実践している先生たちからも実践的な情報が集まり、皆で教えあうことができたら素敵です。

なぜ今、栽培から食卓までの全体をいのちのつながりとしてとらえなおす学びの場が大切なのか。そこはぜひ、実践者たちの声を聞いていただきたくて、最後に映像をご用意しました。20年もの間、学校で栽培から食卓までをつないできたエディブルスクールヤードの実践者たちの声は、感動的です。「なぜ今、エディブル教育なのか」の答えとなる映像、以下のリンクより、ぜひご覧ください。

*「It’s Time For Edible Education – 今こそ、エディブル教育を」


https://www.facebook.com/EdibleSchoolyardJapan/videos/1791882657700049/

次回連載は、「もっと楽しく、風通しのいい職場をつくるために – ESYの組織論」です。お楽しみに!

文・写真 : 小野寺愛


aionodera小野寺愛(おのでらあい)
一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」アンバサダー

旅とウィンドサーフィンに明け暮れた学生時代、外資系証券会社勤務、国際交流NGO「ピースボート」勤務、船上のモンテッソーリ保育園「ピースボート子どもの家」運営を経て、現在、「子ども×自然×地域活性」をテーマとする一般社団法人「そっか」の共同代表。また、一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」のアンバサダーとして、全国にエディブル・エデュケーション(栽培から食卓までのつながり全体をいのちの教育と位置づけて行う食育)を広めている。三浦半島では「パーマカルチャー母ちゃん」として、小学校での大豆教室、映画上映会や、農園ピクニックなど、パーマカルチャー的暮らしを体験する場をコーディネート。逗子市立久木小学校では地域の親子と放課後菜園を運営し、農園併設型保育園「ごかんのもり」では関東全域から参加者を募り、実践型のワークショップを運営している。教育プログラムコーディネーターとして地球を9周し、のべ約6000人の人々と共に世界を旅する中で出会った「平和は子どもからはじまる」が信条。すべての大人が「私の子どもから私たちの子どもたちへ」と発想と行動を転換することがこれからの社会の鍵だと信じて、国内外で人のつながりを紡いでいる。1978年横浜生まれ、上智大学外国語学部英語学科卒業。神奈川県逗子市在住、三児の母。

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