『都市を耕す エディブル・シティ』この映画を観ると、食に関する対話が広がり、できることから始めたくなる!

『都市を耕す エディブル・シティ』この映画を観ると、食に関する対話が広がり、できることから始めたくなる!

 「スローフード」「フードマイレージ」という言葉が世の中を歩き出したのは、今からおよそ四半世紀前のこと。日本でも2000年を超えたあたりから、ロハスやマクロビオティックという流行の言葉とともに、地産地消や産地直送、オーガニック、ファーマーズマーケットなどに注目が集まるようになりました。そして、多くの人が“食の安全”に対して当事者意識を持つようになったきっかけが、311と原発事故。もはや、スローフードやオーガニックは“トレンド”で済ませられる事柄ではなくなったのです。
 けれども、喉元過ぎれば熱さ忘れる、と言うように、時の流れとともにその当事者意識が少しずつ薄れてしまっているのも否めません。気がつけば、忙しい毎日に流され、目の前のことでいっぱいいっぱい……なんていう人も多いのではないでしょうか? 

都会の真ん中で野菜を作る
これが今どきの最先端で
限りなくクールなことなんだ

 そんな私たちをやさしく揺り起こしてくれる映画が、『都市を耕す エディブル・シティ』。アメリカの西海岸を舞台に、さまざまな食の問題に対して真正面から向き合い、問題解決のために実践している人たちの姿を追ったドキュメンタリーです。

©Edible City

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 例えば、映画の冒頭に登場する高校教師のジム。バークレーの街を2頭のヤギを連れて歩く姿が印象に残ります。ジムは生まれつき指がないのですが、自分ができる生き方を選択し、裏庭で野菜を作り、ヤギやウサギを飼育し、授業中にウサギと戯れる時間を生徒たちに与えます。彼は、「食べ物がどこから来るのかを伝える役目になりたい」と、数学を教えながら、今日も都市を耕しています。
 
 ほかにも、アメリカで問題視されている「食の砂漠化(生鮮食料品店へのアクセスが困難な低所得者層が暮らすエリアのこと)」に取り組む市民、「食料主権」という考え方を学問という分野から広めている大学教授、学校で子どもたちに食べ物の育て方と食べ方を通してホリスティックな学びの場を提供するプログラム「エディブル教育」のガーデン・ティーチャー、「食こそ人々の力で変えられる」と都会の真ん中でコミュニティ農園を運営する若者など。登場人物はみんな、とにかく個性的で魅力的でパワフル! そして、生き生きと楽しそう! そんな彼らが語るストーリーは、実践者だからこその説得力を持って、私たちを熱くさせてくれるのです。何より、彼らのわくわくした笑顔に共振してしまうこと、間違いなし。

©Edible City

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食がすべてをつなげる
まずは自分の食卓から
小さなことを始めてみる

 気候変動やエネルギー問題、戦争やテロ、グローバル企業による種の独占化……私たちを取り巻く社会問題は、地球規模(いや宇宙規模かも)で勃発しています。ともすれば「もう、未来はないのかも」と、絶望的な気持ちになりかねません。けれども、すべての人にとって身近なテーマである「食の問題」を扱うこの映画は、観る者の心に希望の種を蒔いてくれます。

「私たちと同じ市民が、こんなに楽しそうに社会変革を起こしている」
 ということがシンプルに感じられるので、
「じゃあ、自分も何かできることを始めてみよう」
 と素直に、前向きに思うことができるのだと思います。

 実際、映画を観終わったあとのシェアリングタイムでは、
「自給自足もいいけれど、食育や学校の授業に農が取り入れられているのはいいなと思った」
「食の扱い方=社会の扱い方 なのだと思った」
「野菜を作ることで、人と人が関わり、つながっていくのがよくわかった」
「食がすべてをつなげる。そこに大きな可能性とヒントを感じた」
「いろいろな問題があるけれど、まずは小さいことから始めてみたい」
 とさまざまな意見や感想が飛び交いました。

 映画で紹介されている取り組みに刺激を受けたら、まずは「自分ごと」に置き換えてイメージしてみては? たとえば、毎日の食卓から始めてみるとか。自分が食べる食材が、「どこで、どんな方法で作られ、どうやってここまでやってきたのか」を知り、じゃあ自分は何を選択するのかということを意識するだけでも、食卓が変わり、ひいては世界の見え方までもが変わるはず。あるいは、庭やベランダで野菜作りにチャレンジするのもいいアイディア。映画の登場人物のように、一人ひとりの小さな変容が、世界を変える大きな一歩になるのですから。

ediblecity
『都市を耕す エディブル・シティ』
2014年/米国/56分
英語・日本語字幕
原題:Edible City
監督:アンドリュー・ハッセ
制作:イーストベイピクチャーズ
http://www.ediblecitythemovie.com
©Edible City

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映画『都市を耕す エディブル・シティ』の字幕を担当し
Edible Schoolyard Project公認アドバケーターの
鈴木栄里さんによるエディブル・スクールヤード最新情報@西海岸

 2016年5月3日に神奈川県相模原市の藤野で行われた上映会では、映画の字幕を担当した鈴木栄里さんによる「エディブル・スクールヤード」についてのお話会がありました。栄里さんは、アメリカのカリフォルニア州バークレーを拠点に新しい社会モデルやアイディア、それを実践しているコミュニティを発掘し、新しい生き方や世界を提案することをミッションとして幅広く活動をしています。

Profile
━ 私はイルカの研究をするためにカリフォルニアに行き、修士号を取得し、生物の先生をしていたのですが、もっと世界を知りたいとバックパックで旅に出ました。そこで、さまざまな出会いがあり、「地球を大事に大地とつながる」「自分を大事に心と体がつながる」「他者を大事に人と人がつながる」ことが、よりよい社会をつくっていくために必要なことだと至り、この3つの要素をつなげるハブが「食」だと思いました。この感覚を多くの人とシェアしたいと思っていたときに、「エディブル・スクールヤード」と出合ったのです。

写真提供 : 鈴木栄里

写真提供 : 鈴木栄里


命は循環の一部であるという
本質的なことを教えてくれる

━ 「エディブル・スクールヤード」とは、今から20年前に料理家で活動家のアリス・ウォーターズが、バークレーで始めた教育プログラムのこと。直訳すると「食べられる校庭」という意味で、子どもたちに野菜の育て方と食べ方を教えるというのが内容です。学校で子どもたちと一緒に野菜を育て、それを料理して食卓を囲むまでのプロセス……、なんてすばらしい教育なの! と感銘を受けました。食べ物は宇宙からのいただきもので、私たちの命を支えてくれていて、その命はすべての循環の一部であるという本質的なことを、子どもたちはこのプログラムを通して、自然に学べると直感しました。

━ 私はバークレーに移り、エディブル・スクールヤードを実践する学校を視察させてもらったり、日本でエディブル・スクールヤードを広める団体と協力したりしながら、エディブル・エデュケーションのムーブメントを現地で体感してきました。今回、この映画の字幕を担当し、日本に紹介するようになったのも、エディブル・スクールヤード・ジャパンの方に声をかけていただいたというご縁が始まりです。

写真提供 : 鈴木栄里

写真提供 : 鈴木栄里


その道のプロが指導する
ガーデン・プログラムと
キッチン・プログラム

━ エディブル・スクールヤードのすばらしいポイントは多々あるのですが、中でも私が「いいな」と思うのは、その道のプロが指導に当たっているという点です。野菜の育て方はガーデナーを生業とするガーデン・ティーチャーが、調理はシェフであるキッチン・ティーチャーが教えます。しかも、収穫だけを体験するなどの“いいとこどり”ではなく、ガーデン・プログラムではコンポスト作り、畝作り、種まき、苗作り、挿し木、栽培、収穫までを体験します。キッチン・プログラムも同様に、本物の調理器具で料理をして、食卓を囲み、残った野菜はコンポストへと戻します。

自分たちで作った料理をオンラインで販売!
後輩たちへキッチン・プログラムを
ギフトする「Growing Leadership Program」

━ 20年前にアリス・ウォーターズが、ある中学校の教師用の駐車場を畑に変えることからスタートした「エディブルスクールヤード」をモデルとし、現在ではカリフォルニア州のすべての小中学校が菜園を持つようになりました。
 バークレー学区では「ガーデニング&クッキング プログラム」として各学校のガーデンとキッチンプログラムに助成がされていました。けれども、ここ最近、キッチン・プログラムに対する行政からの助成金が打ち切られてしまいました。キッチン・プログラムはエディブル教育には欠かせない要素。そこで、バークレーのある学校では「Growing Leadership Program」という新しいプログラムを取り入れることにしたのです。

写真提供:鈴木栄里

写真提供:鈴木栄里

 
━ これは、7、8年生(中学2、3年生)の選択科目のひとつで、2週間に一度、料理を作ってオンラインで販売し、その売り上げを下級生である6年生のキッチン・プログラムを運営する資金にするというもの。
 月曜日から木曜日まで料理を作り、木曜日にオンラインで販売し、その日の放課後に予約をした人が学校にピックアップしに来ます。予約販売は家庭のキッチンで作られた料理を販売する専門のサイト (Josephine https://josephine.com/)に委託していて、そのサイトがキッチンの衛生管理をチェックするというシステム。生徒たちはメニューを考え、それぞれの役割分担を決めて、木曜日の販売に備えます。
 大人はサポートに徹し、細かいディレクションをしないというのがこのプログラムのすばらしいところ。そして、実際昨年は1年間で200万円を稼ぎ出し、下級生のキッチン・プログラムが遂行されたと聞きました。

写真提供:鈴木栄里

写真提供:鈴木栄里


━ また、バークレーでは「ソーダ・タックス」という市の条例が提案されました。これは、清涼飲料水に税金をかけて、そのお金をキッチン・プログラムの資金にしようというもので、実現すればさらに新しい動きが起こるのではないかと期待されています。

日本中の学校に菜園を!
街中にコミュニティガーデンを!
食が変われば、世界が変わる

━ 日本でも、エディブル・スクールヤード・ジャパンのリードで、東京の多摩市立愛和小学校でガーデン・キッチンプログラムが取り入れられ、2年間に渡って実践されました。このモデルをきっかけに、多くの学校にエディブル・スクールヤードのプロジェクトを広げていきたいと、私も活動を続けています。

━ そして、今回ご紹介した映画『都市を耕す エディブル・シティ』が、食に関する対話を広げ、エディブル・スクールヤードを筆頭にコミュニティガーデンやシティファーマーなどを増やすことへとつながり、日本中のエディブル・シティのプラットホームになればいいなと思っています。

構成・文 : 神崎典子 (神崎さんのColumn <記憶する種> はこちら

erisuzuki鈴木栄里 Eri Suzuki
イルカの研究をするためにカリフォルニアへ渡り、生物の教師となる。その後、世界一周旅行中に、サティシュ・クマールの言葉「Soil Soul Society〜土と心と社会」に出合い衝撃を受け、「これからの時代に必要なのは、このトリニティだ」と、この言葉を軸として活動をスタート。現在は、カリフォルニア州バークレーを拠点に“Cross Pollinator”として、ミツバチが花から花へと飛びながら花粉を集めて振りまくように、アメリカ西海岸と日本を中心に、新しい社会モデルやアイディア、それを実践しているコミュニティを発掘し、インスピレーションの花粉を運ぶことで、これまでになかった新しい種を生んでいくことをミッションとしている。
Cross Pollinator 主宰、 Edible Schoolyard Project 公認アドバケーター、 Edible Schoolyard Japan Chief Ambassador、 Edible Media 代表、 Tokyo Urban Permaculture コアメンバー

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