自由学園 インタビュー第三回 【食事作りが育くむ親子愛、自由学園の食の学びとは】

自由学園 インタビュー第三回 【食事作りが育くむ親子愛、自由学園の食の学びとは】

中心に「食堂」を持つ学校…… それはいったい、どのようなところなのでしょうか?
「日本と世界の良質で本質的なエディブル・エデュケーションを繋いでいく」Rice Ball Networkで、私たちはまず東京・東久留米市にある学校法人・自由学園を取材したいと思いました。
東京都内とは思えない広大で自然豊かなキャンパスを持つ自由学園の真ん中には、なんとも素晴らしい建築物である食堂がありました。
創立から95年という歴史の中で行われてきた食の学びについて、この4月から学園長に就任した高橋和也さんと、食糧部部長・石川章代さんに行ったインタビューを、3回に渡ってお届けいたします。

自由学園
ジャーナリスト羽仁吉一・もと子夫妻によって1921年に創立された、少人数制一貫教育の学校。現在は東京都東久留米市に校舎を構え、「幼児生活団幼稚園」「初等部(小学校)」「女子部(中等科・高等科)」「男子部(中等科・高等科)」「最高学部(大学)」がある。“生活即教育”を基本理念とし、自然との関わり合いを重視した、特徴的なエディブルエディケーションを行っている。
自由学園HP

■「子を思う親の気持ち」が一番
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━ 現在、初等部では父母の方が毎日200食くらい昼食をつくっているそうですが、それだけの食事を、どのような仕組みでつくっているのでしょうか。

石川:今はフルタイムで働いている方が増えてきているので、私が親だった頃は月に1度は当番に出たのですが、今は2カ月に1度くらいを目安にしています。

やはり専業主婦が多かった時代と同じ仕組みではできないので、台所の準備など、これまでは父母がしてくださっていたことを、今は食糧部が学校側の仕事としてだいぶ担うようになりました。

━ 献立をたてているのは食糧部ですか。

石川:献立を検討する「献立会議」というのを、父母と食糧部、さらに教師も加わってしています。前の年の父母がたてた献立を、翌年の父母が見直してくださり、そのまま使ってもいいことにしています。父母が「子どもたちのためによいものを」と考えて、さらに栄養バランスを考慮したものだから、信頼できる献立です。

けれど、何か変えたいことがあったら、変えてもいい。献立会議のときに「お豆を加えたい」という提案があったら採用するなど、そのときどきの父母の気持ちを尊重しています。

━ 献立会議の頻度は?

石川:去年までは月に1度でしたが、それも父母の負担を減らすために学期に1〜2度になりました。

自由学園女子部の食堂(写真提供:自由学園)

自由学園女子部の食堂(写真提供:自由学園)

━ 調理工程、仕込みから仕上げまでのオペレーションは食糧部の方がするのでしょうか。

石川:献立が既存のものなので、過去に何度もつくられているのです。さらに当番のみなさんは必ず記録を残しています。その記録を見れば、「このメニューはこの人数では大変らしいよ」とか、あるいは献立だけではなくメンバーによっても変わるので、「もしかしたら初めての人が多かったから大変だったのかもしれない」とか、記録を検証しながら、これまでの方法を踏襲しています。

━ 100年という学園の歴史とともに積み重ねてきたノウハウがある。

石川:さらに食糧部の衛生管理者が毎日調理の様子を見ているので、アドバイスをして、父母と意見を交わしながら進めています。

━ 経済面についてもうかがわせてください。1食分のコストはどれくらいですか。

石川:予算を組んで、食費を管理しているのは食糧部です。初等部に関していえば、いわゆる人件費はさほどかかっていないので、コストの食材比率は、調理員を雇っているところに比べると高く、半分くらい。

初等部の食費は月額7480円で、ギリギリの黒字です。ときどき赤字になりますが、工夫すれば解消できる程度。決算をして、「このままだと大変だから、価格の安いもやしを増やしたい」などと父母に申しあげたり、市場で青菜が高騰するときは、代わりに違う食材にすることをご相談したりしています。

━ 献立の栄養計算だったり、量だったりは、厚生労働省の出しているガイドラインに合わせているのでしょうか。

石川:子どもの発育に合わせて、これくらいの範疇で献立を決めなさいと、厚労省から指針が出ているので、見合った形にしています。そのなかで「男子部だったらたくさん運動するからこうしよう」などとアレンジをしています。

初等部だったら、献立から栄養バランスを割り出して、「豆が足りません」「カルシウムが足りません」などと父母に伝え、「豆製品を入れた方がいいですね」「ここに小魚を加えましょう」というようなやりとりをしています。

━ うかがっていると、厚労省のガイドラインを守りながらも、やはり家庭料理の延長といいますか、父母と食糧部で、子どものために一番いいと思える食事づくりを常に探っている。

石川:「子を思う親の気持ち」というのが一番じゃないですか。大前提として親御さんが子どもに対して悪いことをなさるわけがない。

ただ、個人によってよいと思うことが若干違っていたりもするので、そこは尊重しつつ、学校としてはなるべくフラットでいたいとお伝えしています。どうしてもこだわりがある方がいたら、お話をうかがい、食糧部として検討して、どのようにするかを決めています。

■ごはんを食べながら、愛を食べている

自由学園初等部の生徒が描いた食事の様子(写真提供:自由学園)

自由学園初等部の生徒が描いた食事の様子(写真提供:自由学園)


━ ご家庭であまり料理をしないお母様にとっては、自由学園は学びの場になっていると思いますが、一方で不満の声が上がることはありませんか?

石川:子どもを自由学園で育てたいけれども、自分はさまざまな理由で食事当番はできないという方が、まったくいないわけではないと思います。そういう方が一度も当番に出ていらっしゃらないかどうかは、父母の委員会(※)が管理してくださっているので、私はわからないのですが。

※委員会:献立作成や食事当番の管理など、食事づくりに関する仕事を行う。各クラスから数名ずつ、1年間務める。

先日、初等部、男子部、女子部の父母の方たちが、1年が終わった謝恩会をしてくださいました。そこに初等部の6年生の親御さんで、委員をされていた方がいて、「この1年間、本当に楽しかった」とおっしゃってくださいました。

食事当番を組むという大変な仕事をしてくださっていたので、「大変でしたでしょ。ありがとうございました」と伝えたら、「実を言うと、私は料理が大っ嫌いだったんです」と。だから学校での食事づくりも、「なんでこんなことをしなくちゃいけないんだろう」と思っていたそうです。でも、最終的に「こんなに楽しいことはありませんでした」と話してくださった。

「みんなで一緒に作業をして、学校にもたくさん来たことで、今まで見えなかったことが見えるようになりました」という言葉に、ありがたくて泣きそうになりました。

━ 実体験することによって、お母様にも学びや気づきがあるというのは素晴らしいですね。

石川:そういう方もいれば、そうじゃない方もいらっしゃるかもしれません。でも、そういう方と一緒にやっていると、周りがだんだん感化されてくるのですよね。

自由の話になりますけど、「やらされている」「嫌だ」と思ったら、いつまでも不自由なのですよね。だけど、「これは自分が子どものためにやりたくてやるんだ」くらいの気持ちになれば、すごく自由だと思うのです。

私はキリスト教の難しいことはわからないですが、創立者の言っている自由とは、こういうことなのかもしれません。さきほどのお母様の晴れ晴れとしたお顔を拝見して、「そうか、これが自由学園の自由なのかもしれない」と思いました。受け身では見えないものなのかもしれません。

父母による食事づくり(写真提供:自由学園)

父母による食事づくり(写真提供:自由学園)

━ 最後に自由学園として、エディブルエデュケーション、つまり「食べる学び」をどう捉えているかを教えてください。

高橋:食べることって、つまりは命をもらっているということなんですよね。命をもらいながらしか生きられない人間が、どんな食べ方をするかのなかに、生き方が現れる。ぞんざいな食べ方だったり、ぞんざいな調理や片づけではなくて、命をもらって生きていかなければいけない人間として、命への感謝の心が育つような食べ方をしていきたいと思います。

また、自由学園では学校を一つの大きな家族と考えていますが、先生も生徒もみなで共に毎日食卓を囲む食事時間は、家族のつながりを実感する本当に楽しいひとときです。上級生も下級生も縦割りで同じテーブルに着くのでつながりの輪が広がるときでもあります。食堂を持ち、全校で一緒に食事ができることは本当に幸せなことだと思っています。

父母が食事をつくってくれていることに対して、あるとき、母の日だったか、高校生の男の子たちが「僕たちはここでお母さんたちの愛を食べて育ってきました」と感謝の言葉を述べました。「毎日大変でも、お母さんたちは僕たちのために、心をこめて食事をつくってくれていた。その食事を食べながら、僕たちは愛を食べていた」。その言葉に子どもたちの心と体の成長を感じました。

石川:食べることは、やめることのできないことです。だからこそ面倒にもなり、大変でもあるのだけれど、食事は自分のもとになっているもの。自分がどう生きていくかを考えるなかで、どう食べていくかというのは、まず見つめなおした方がいいことだと思います。そこから教えられることは、本当に大きいです。

高橋:今度はぜひ実際に生徒たちの育てた野菜、生徒たちの作った昼食を食べにきてくださいね。
 

自由学園 インタビュー
第一回 【自由の意味と食事作りの歩み】 http://riceball.network/archives/566
第二回 【食糧部の成り立ちと、食事作りからの学び】 http://riceball.network/archives/724

 3回に渡ってお届けいたしましたインタビュー、いかがでしたでしょうか?自由学園で行なわれている日常の中の教育は、けっして特別なことではないはずなのですが、今ではとても貴重で尊いことだと捉えられます。
 現代社会の中で失われていく食卓の風景と、暮らしを整える作法、なによりもそれらによって育まれる「心」を、教育機関である学校が教えていくことで、社会や家庭にまた新たな気づきとして引き継いでいる自由学園。その存在意義は計り知れないと感じるばかりです。
 次はぜひ、生徒さんが育てた野菜と父母が作られた料理で食卓をともにしながら、実際の食事作りの模様や食堂の風景を皆さんにお届けできたらと思います。お楽しみにどうぞ。
 

インタビュー:塚本サイコ
構成・文・一部写真:吉田真緒

吉田真緒(よしだ・まお)
ライター・編集者。自由の森学園卒業後、早稲田大学第二文学部にて文芸やメディア論を学ぶ。編集制作会社勤務を経て2012年に独立。書籍を中心に、雑誌、Webメディアなど、多数の媒体の制作に携わる。ソーヤー海監修の『URBAN PERMACULTURE GUIDE』にて、EDIBLEの章を担当。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。食やコミュニティ、未来へつながる暮らし方をテーマに、取材・執筆を続けている。
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