自由学園 インタビュー  第二回 【食糧部の成り立ちと、食事作りからの学び】

自由学園 インタビュー 第二回 【食糧部の成り立ちと、食事作りからの学び】

中心に「食堂」を持つ学校…… それはいったい、どのようなところなのでしょうか?
「日本と世界の良質で本質的なエディブル・エデュケーションを繋いでいく」Rice Ball Networkで、私たちはまず東京・東久留米市にある学校法人・自由学園を取材したいと思いました。
東京都内とは思えない広大で自然豊かなキャンパスを持つ自由学園の真ん中には、なんとも素晴らしい建築物である食堂がありました。
創立から95年という歴史の中で行われてきた食の学びについて、この4月から学園長に就任した高橋和也さんと、食糧部部長・石川章代さんに行ったインタビューを、3回に渡ってお届けいたします。

自由学園
ジャーナリスト羽仁吉一・もと子夫妻によって1921年に創立された、少人数制一貫教育の学校。現在は東京都東久留米市に校舎を構え、「幼児生活団幼稚園」「初等部(小学校)」「女子部(中等科・高等科)」「男子部(中等科・高等科)」「最高学部(大学)」がある。“生活即教育”を基本理念とし、自然との関わり合いを重視した、特徴的なエディブルエディケーションを行っている。
自由学園HP

インタビュー第一回はこちら http://riceball.network/archives/566

■父母の料理の経験値に合わせてサポートする
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父母による食事づくり(写真提供:自由学園)

━ 生徒がいなくなってからの食糧部の取り組みについて、うかがえるでしょうか。

石川:世間でO157の事件などが起こり、父母がしてくださっている食事づくりに、衛生管理をする職員を配置することにしたのですね。今も、毎日初等部と男子部の調理の場に、食糧部の衛生管理者が行って、父母の方たちと一緒にお料理をしています。

配置されたばかりの頃は、衛生管理者は責任があるから「ああしてほしい、こうしてほしい」と言うじゃないですか。そうすると父母から「衛生面での管理に対してはいいけれど、お料理の手順については、申し訳ないけど口出ししないでもらいたい」と返されるような時代もありました。それが少しずつ変わってきた。

自由学園での食事づくりは大量調理ですから、家庭の料理とはそもそも違うのですが、もしかしたら父母の家庭での料理の経験値も、少なくなってきているのかもしれません。今までの衛生管理者は基本的には口出しせずに、「必要なときだけお教えします」というスタンスだったのですが、今は「なんでもいいからわからないことは聞いてください」という態度になってきています。

父母によっては自分で料理をしたい方もいると思いますが、「どう料理していいかわからないし、心配だから教えてほしい」という方も少なくない。だから衛生管理に入っている食糧部の者は、そのときどきの父母に合わせて自分の立ち位置を決めています。

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石川章代さん:自由学園卒業後、一般企業で勤務後下の子供が幼児生活団に入団と同時に幼児生活団でパートとして仕事を始める。その後1997年度より本務職員として女子部清風寮の寮母勤務後1999年度食糧部へ異動、2009年度より現職。

━ 石川さんご自身も自由学園の卒業生でいらっしゃいますよね。

石川:はい、かつては女子部の生徒として料理をしていました。あと、子どもを入学させていたので、親としてもしていました。

━ 自由学園をご卒業されて、お子さんもこちらに入学させて、さらに今食糧部で働かれているということは、本当に学園を愛されているのですね。

石川:だけれども実は私、生徒だったときは、働かされてばかりの学校が嫌いでした(笑)。私は怠け者なので。でも社会に出たときに、嫌だ、嫌だと思いながら過ごした学校生活で、いろんな種をまいてもらっていたことに気がついたのです。会社に行くと、私がなにげなくやることを、みんなが「おおーっ」と驚く。私にしてみたら、なんでこんなことで驚くの? ということなのですが。

━ 具体的にはどうことですか。

石川:すごく些細なことです。例えばコピーを頼まれたとき。まだソーターがなかった時代なので、「書類の束を5部コピーしきて」と言われたら、1枚ずつ5部コピーして、後から5セットに分ければいい。けれど、コピーした紙が出てくるまでの時間がもったいないので、後ろのページからコピーして、同時進行で分けていました。そしたら、「あなた何やってるの?」と驚かれて、「いや、時間がもったいないから」と、つまらないことなのですけど(笑)。

━ それは、自分で考える力があるということですよね。

高橋:最近の卒業生も言っていましたね。当たり前だと思ってしたら、感心されたって。

石川:うちの娘もそうでした。文房具メーカーに就職したのですけど、会社に行ってまずびっくりしたのは、自分のゴミを捨てに行こうとしたら、「ゴミを集めにくる人がいるから、置いておいていい」と言われたと。棚卸のときも、「お母さん、食糧部の仕事より(娘は、生徒として食糧部運営に携わった最後の学年なので)よっぽど楽ちんだったよ」って(笑)。

高橋:「こんなことでお金をもらっていいのだろうか。社会ってなんて楽なのだろうと思った」と言った卒業生もいましたね。

━ 逆に、今の社会に疑問を感じてしまいますね。

石川:会議が始まるちょっと前に「椅子でも並べておこうかな」なんて思って実際にやると、「え、これ誰がやってくれたの?」と驚かれたり。でも、それって次のことを考えれば当たり前でしょ。自由学園で、常に次のことを考えて動くことを学んでいたことは、在学中は気づきませんでした。

■生徒が親になったとき、子どもを入れたいと思う学校
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自由学園初等部の昼食風景(写真提供:自由学園)

石川:子どもを育てていたとき、自由学園に入れようかどうか、正直悩みました。特に幼児生活団や初等部は親が食事づくりをしなくていけない。随分迷いましたが、夫や義母に背中を押されて入れました。

やっぱり食事をつくりに行くのは気が重くて、「なんでこんなことをするのだろう」と思いながらやっていました。でもそこで、生徒のときとは全然違う学びをさせてもらったのです。

━ どういう学びがあったのでしょうか。

石川:子どもの学年も違う知らない親御さんたちと、大事な子どもたちのために1日の時間を共有することで、親としてすごく育てられた。自分の好きな人ばかりでなく、たまたま組み分けられた人たちと、同じ目的のために力を合わせて努力する、子どもの食事をつくるということは、なかなかできる体験ではありません。

そのうえ、「昨日子どもが宿題をやらなかった」とか、「忘れ物ばっかりして、また叱られた」とか、誰かが子育ての悩みを打ち明けると、「大丈夫よ。子どもなんて、気がつけばできるようになっているから」と先輩の親御さんが励ましたり。「うちの子どものお古あげるから着せてみて、きっと似合うと思うよ」とか。

━ コミュニケーションの場になっていたのですね。

高橋:共同作業をすることで、仲間意識ができる。生徒も仲間意識ができるけど、父母のみなさんも同じです。ただ保護者会に出席して権利を主張するだけではなく、子どもを支えるということを一緒にするから、強い結束が生まれる。

━ まさに共同体ですね。

高橋:僕が自由学園の生徒だったとき、僕の母も食事をつくりに学園に来ていました。驚いたことに、僕たちが同窓会をしていなくても、母たちが一緒に旅行に行ったりして、未だにつき合っているのです。「卒業して何十年経っているの?」みたいな(笑)。母たちのつながりはすごいです。自分が生きていく仲間ができている。

━ 高橋さんは、自由学園の生徒だったとき、自労自治の活動についてはどう思ってらしたのですか。

高橋:僕はいろいろやらせてもらって楽しかったですね。

石川:素直だね、私なんか疑問だらけでした。

高橋:女子部の方が伝統のうえに成り立っているから、きちんとしているのですよ。男子部はそれに比べてゆるかったけど、それでも自分たちのことを自分たちでやっていたことは、すごく誇りです。

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黒板に書かれたスケジュール。年度末には「完全家事」という日がある

━ 自由学園をご卒業された方は、生活力と生きていく力をお持ちなのだと感じます。

高橋:僕は子どもを3人小学校から自由学園に在学させて、一人はちょうどこの春大学部を卒業したばかりです。自由学園は、創立者が自分の娘を育てるいい学校がないからと、手づくりで納得のいく学校をつくってできました。僕も、自分が本当にいいと思う教育、自分の子どもを通わせたい学校ということで、自由学園を選びました。娘たちのクラスには、自由学園の教員のお子さんが4人もいました。これほど教員が自分の子どもを入れている学校は珍しいかもしれません。

石川:生徒だった頃は嫌だと思っていても、いざ自分の子どもの教育を考えることになったとき、いろんな選択肢を検討しましたけど、やっぱりここで同じ経験をしてほしいと思いました。

第三回に続く・・・

自由学園 インタビュー
第一回 【自由の意味と食事作りの歩み】 http://riceball.network/archives/566

インタビュー:塚本サイコ
構成・文・一部写真:吉田真緒

吉田真緒(よしだ・まお)
ライター・編集者。自由の森学園卒業後、早稲田大学第二文学部にて文芸やメディア論を学ぶ。編集制作会社勤務を経て2012年に独立。書籍を中心に、雑誌、Webメディアなど、多数の媒体の制作に携わる。ソーヤー海監修の『URBAN PERMACULTURE GUIDE』にて、EDIBLEの章を担当。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。食やコミュニティ、未来へつながる暮らし方をテーマに、取材・執筆を続けている。
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