作って、食べて、考えてきた 定松千歌さんによる調味料のおはなし<Report>

作って、食べて、考えてきた 定松千歌さんによる調味料のおはなし<Report>

 福岡市博多区住吉にある「デイライトキッチンオーガニック」(以下、デイライト福岡)は、無農薬・自然栽培の野菜、サスティナブルな方法で飼育された九州産の肉や卵、近海で水揚げされた鮮魚を料理に取り入れたカフェ&レストラン。ここでは、毎日、楽しみながら続けられるオーガニックをテーマにした彩り豊かな料理との出会いが待っています。

 そんなデイライト福岡では、「食育」もその活動の一環として取り組んできました。3月16日、デイライト福岡が企画したトークイベント「私の調味料の選び方・考え方」で自身の体験を通したお話を聞かせてくれたのが定松千歌さんです。会場には27名が集まり、定刻を今か今かと待っている姿が印象的でした。いざ、トークが始まると、参加者たちは一様に目を輝かせ、会場はワクワク感で満たされます。

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↑今回のトークイベントはお弁当を食べながら話を聞くというゆるやかなスタンス。みなさん、美味しそうに写真に収めていました。

 パシャ、パシャと会場に鳴り響くシャッター音。この日のイベントは「同じ釜の飯を食べて気持ちを共有したい」という思いから、特別にお弁当が用意されました。このシャッター音の“嵐”は、お弁当が配られた時の出来事。会場の空気は一気に和やかになり、参加者たちの表情もみるみるうちに明るくなっていきます。

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↑お弁当と一緒に、千歌さんによる手作り味噌を使ったワカメとお豆腐のお味噌汁、さらに千歌さん自家製のハーブ茶(レモングラス、黒豆、よもぎ、とうもろこしのヒゲ、陳皮、スギナ入り)も味わってもらいました。

この日のお弁当に詰まっていたのは、以下の品々です。
( )内は定松家の自家製のもの
*梅酢キャロットラペ(梅酢)
*菜の花・スティックセニョールの塩麹和え(塩麹)
*里芋・人参・ゴボウの煮物(定松家で使用している醤油使用)
*ほうれん草・レッドキドニーの醤油麹入り白和え(醤油麹)
*おむすび2種<梅干し/昆布の佃煮>(梅干し)

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↑こちらがそのお弁当です。野菜はデイライト福岡で取り扱っている無農薬栽培のものが使用されていました。

 最初に千歌さんが伝えたのは「表示ラベルをじっくり読んで、無化学・無添加のものを選んでいる」ということ。砂糖においてはなるべく精製が少ないもの、塩はグルタミン酸ナトリウムが入っていない海水を釜で煮詰めたもの、醤油は遺伝子組み換えではない大豆と小麦を発酵させて作る醤油麹と、塩、水だけでできたもの、油は国産の材料を圧搾方法で絞ったもの、といったように、私たちの身近にある調味料について、それらの選び方を一つひとつ教えてくれました。

 「ただね」と千歌さん。これらの選び方、そしてこれから話す考え方においても「絶対ではない」と念を押します。「私も考え方が少しずつ変わってきているから。」あくまで、調味料、そしてひいては食べることを考える一つのきっかけになれば、と穏やかな口調で続けました。

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↑参加者たちはお弁当を食べ、千歌さんの言葉をメモし、と大忙し。実際に食べるからこそ感じられるものもあったようで、味についての描写を控える方もいらっしゃいました。

 調味料の選び方についての話が終わり、原材料の育てられ方について話題が移ります。加工品には食品表示義務がありません。調味料を変えていった頃、お醤油に使われている大豆が遺伝子組換えだったら、農薬が大量に使われていたら―——それらが気になりだしたのだそう。

 その気持ちは、千歌さんがご主人のシンジさんとともに企画・発行している「つくる、たべる、かんがえる」をテーマにした食べることを考えるリトルプレス「PERMANENT」(パーマネント)とも強いつながりがあります。
この「PERMANENT」は、Timeless(時代を越えるもの)、Borderless(境界を越えるもの)、Creative(創造的なもの)、Necessary(必然的なもの)、Will(そして、そこに意志があること)という5つの掲載における基準があり、「生活の質」を高めることを目的としています。
「PERMANENT」をきっかけに知り合った取材対象者は、例えば生産者であれば「この人から買いたい」と思える人物で、価値観の多くを共有できる人物でもありました。
 出会いを重ねるたびに、誰が、どのように作ったものなのか、が大切だという思いが強くなっていったそうです。

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↑PERMANENT 誕生の背景には、3.11の影響も大きかったそう。「あの日、それまでの価値観がガランと音を立てて崩されました。私たちがこれから先、生きていく上で一番の根源にある“食べること”を、今まで以上にはっきりと意識するようになりました」と千歌さんは当時を振り返ります。

 「市販の調味料の原材料に不安があるなら、まずは作ってみよう!」そう思うようになったといいます。今では「手作りの良さは、すべての材料を自分で選べること」「自分で作ると原材料を知ることもでき、市販のものを選ぶ時にも役にたつ」が千歌さんの口癖です。

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↑調味料を手作りするようになると、お菓子やパン、ソースなどを作る際も考え方を応用できるという千歌さんの言葉に、実際に作ったことがある参加者は何度もウン、ウンと力強く頷いていました。

 定松家で現在、手作りしているのは、塩麹や醤油麹、甘酒、ポン酢、ごまペースト、豆板醤、キムチ、ラー油、マヨネーズ、甜麺醤、ジェノベーゼソースなど実に多種多彩です。調味料を作り出して大きく変わったのが「使用する量」だとも言う千歌さん。時間をかけたのに、少量しか作れない、保存が難しいものは使用量を減らし、別のもので代用したりすると言います。さらに塩自体の使用量を減らすために塩麹や梅酢を、砂糖を減らすために甘酒やハチミツを組み合わせるというテクニックも披露してくれました。

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↑笑顔で楽しそうに手作りの魅力を伝えてくれた千歌さん。その姿を見て「作ってみようかな」と声に漏らしていた人も見受けられました。

 「調味料を含め、食べ物を変えるにあたり、ご主人のご協力、理解はありましたか」という参加者からの質問に対し、「調味料を変え、食事を変えていくうちに、本人の体調がよくなっていき、そうなると“やっぱり良いのか”と頭だけでなく体でも分かってきます。それが一番ですね。あとは、無理をしないこと。ストレスにならないよう、段階的に手作りを取り入れていくのも良いと思いますよ」と千歌さんは優しい口調で回答しました。

 会を終え、テーブルをみると、どのお弁当箱もすっかり空っぽ。「手作りをすると、その調味料が我が子のように愛おしくなるんですよね」。そんな千歌さんの言葉が、目の前に広がっている光景に表れていました。

 ある参加者は「知っていることでも、別の人から聞くと安心、納得できますね。手作りを続けていくエールをもらった気分です」と言って、満面の笑みで会場を後にしていました。

取材・文・写真 : 山田祐一郎 (KIJI)

Yuichiro Yamada 山田祐一郎 やまだ・ゆういちろう
 福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライター(物書き)として活動中。麺の専門書、雑誌、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。
HP : ii-kiji.com

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