前原小学校エディブル・スクールガーデン

前原小学校エディブル・スクールガーデン

2016年の夏、「エディブル・エデュケーション ともに育て ともに食べる いのちの教育」という動画のタイトルが、ふと目に止まりました。ちょっと気になって再生ボタンをクリックすると、いっきにその世界に惹きこまれ、画面に釘付けになった5分間。動画が終わって最初に思ったことは、「日本でもこんな授業があったらいいのに!」でした。

数か月後。金木犀の優しい香りが漂う頃、東京都小金井市にある小学校でエディブル・スクールガーデンを作っていくという話が舞い込んできました。私が住んでいる府中市の隣街です。「あの授業が近所にやってくるの!?」それはもう大興奮で、行きます!手伝います!と即答してしまいました。

そんな経緯で、微力ながらもエディブル・スクールガーデンを作るお手伝いをさせていただきました。学校が目指すのは、2017年春からの授業への導入。私が参加したのは、その約半年前の準備として菜園を作るという部分です。短い期間でしたが、その過程で出会った光景は素敵なものばかりで、お手伝いします!と最初に言ったときの大興奮よりももっと大きな興奮と喜びが待っていました。

これからみなさんの周りでもエディブル・スクールガーデンの輪が広がり、あの素敵な授業が当たり前のように開かれる日が来ることを願いながら、少しだけ早く始まった小金井での物語をご紹介したいと思います。

はじまり

「お手伝いできる方は、9:00に校門前に集まってください。」

2016年10月、その日は仕事を休んで集合場所へ向かいました。ぎゅうぎゅう詰めの満員電車ではなく、愛車に乗る、たったそれだけで気分は上がります。(愛車はママチャリ♪)この日は台風一過で、車通りの多い幹線道路でも青空の下で自転車を漕いでいるだけで、不思議と心地よさに包まれていきました。15分ほどして到着したのは、東京都小金井市立前原小学校、地域にある「ふつう」の公立小学校です。

しばらくすると、ひとり、ふたりと人がやってきて、気が付けば20名近くの人たちが集まりました。平日のボランティア作業にもかかわらず結構な賑わいです。

校門をくぐると、芝生の校庭が広がっていていました。左手にはかわいらしい飼育小屋が見え、右手に3階建ての校舎が建っています。

使う道具や材料を手分けして持ち、さっそく校舎の中へ。階段で3階まで上がると図書室があり、突きあたりに屋上へと続く扉が見えます。普段は鍵がかかっていて子どもたちは外に出られないそうですが、この日は作業のために扉が開いていて、私たちは屋上へ上がりました。


この屋上が今回のお話の舞台です!これからどんな風に変わっていくでしょうか?

想いに集まった人たち
屋上にやってきたのは、こんな人たちです。

キヨさん

キヨさん(設楽清和さん)– 神奈川県の藤野にある「パーマカルチャーセンタージャパン」の代表。1996年からパーマカルチャー塾を開き、熱いハートで人々にパーマカルチャーを伝え、生き方を問い続けています。今回のプロジェクトではガーデンデザイナーとして、パーマカルチャーの考えを取り入れた菜園をデザインしてくださいました。

ノザキさん

サイコさん

ノザキさん(野崎正律さん)、サイコさん(塚本サイコさん)ご夫妻 — ご夫婦で東京・渋谷にあるオーガニックレストラン「デイライトキッチン」のオーナーをされています。ノザキさんは初めてお会いしたときはクールな人かと思ったのですが、実はとっても気さくで熱い方。娘さんの通っているシュタイナースクールのお話などよく聞かせてもらうのですが、もう目がキラキラして少年のようです(と勝手に思っています笑)
サイコさんは、誰でも受け入れてくれるような大らかさと温かさのある方。屋上で初めてお会いした日の帰り際、あれ?今日初対面だったっけ?と疑ってしまいました。同時に、食に対する強い信念を持って、真に価値ある食とは何かを世に発信し続けている素敵な女性です。この素敵なおふたりの「デイライトキッチン」が、プロデューサー&オーガナイザーとして今回のプロジェクトを支えています。

ようこさん

ようこさん(石原洋子さん)– 前原小学校PTA会長さん。温和で、優しくて、いつも周りを気遣ってくださる方。毎回、ようこさんが手作りの飲み物や食べ物などの差し入れをしてくださって、私たちはどれだけ癒されたことか。こんな素敵な方がPTA会長さんだと、PTA活動が楽しくできて、役員になりたい人が増えるのではないでしょうか♪

アメちゃん

アメちゃん (雨宮陽一さん)– 会社員をやめて山梨県で有機農業をしている若い農家さん。農に関する知識が豊富で、毎回それはそれは色々なことを教えてもらいました。種、苗、堆肥などの資材もたくさん山梨から運んできてくれました。軽トラの荷台いっぱいに堆肥を乗せてきてくれたときの光景は今でも忘れません(笑)キヨさんのパーマカルチャー塾の受講生でもあります。

お手伝いのみなさん

お手伝いのみなさん — キヨさんのパーマカルチャー塾の受講生と、前原小PTAのお母さんたちが中心のコラボチームです。毎回新しい参加者がいて色々な方に出会えました。ちなみに私も、ちょうどこの年パーカルチャーのデザインコースに通う受講生でした。また、我が家にも小学校1年生の娘がいるので、学校は違っても同じように子どもたちの未来を想うPTAのお母さんたちに出会い、一緒に活動できたのもとても嬉しいことでした。

こんなメンバーが仲間になり、これから作業が始まります。

想いをカタチに #1 ~種を蒔こう~

「わ~こうなるんだ!」
キヨさんが広げた屋上ガーデンの完成予想図を見た途端、具体的なイメージが湧いて気持ちが高まりました。さぁ、やるぞ!

図面。自生種ゾーン、花ゾーン、野菜ゾーン(キーホールガーデン2つ)、タイヤハーブガーデン、果樹ゾーン、ミミズコンポスト、アースオーブンを作る予定。

10月6日(木)、初日の作業は5つありました。
①キーホールガーデンを作る
②タイヤガーデン作る
③土を入れる
④種を蒔く
⑤マルチをする

「キーホールガーデン」は、円形の菜園の中にキーホール(鍵穴)の形をした作業スペースを設けたものです。キーホールの部分に入れば、苗を植えたり収穫したりする際にあちこち歩き回ることなく作業がスムーズに行えますし、作物や土を踏み固めることもないため、自然の土により近い状態で栽培することができます。また、「2つ以上の異なる環境が接する縁(エッジ)には豊かな生態系が生まれ生産性を高めることができる」、という考え方がパーマカルチャーにあります。キーホールガーデンの場合、キーホールの曲線がエッジを作り、そこに多様性が生まれていきます。

今回は、桜やブドウの木の枝を杭にして、キーホールガーデンの囲いを作っていきました。地面を掘って杭を立てていくという作業は、簡単なようで意外と難しいものでした。お手伝いメンバーであれこれ考えながら進めていき、一通り杭を打って、できた!と思ったら、

「そのキーホール、美しくないぞ。」

とキヨさんからのコメント。え~そんなことないでしょう?と疑いながら少し離れた場所から見てみると、確かに形がいびつで違和感があるのです。それからまた土を掘り返し、杭の並びを変え、さまざまな微調整を繰り返しながら納得のいくキーホールに仕上げていきます。この日は10月にもかかわらず30度を超す真夏日になり、汗をかきながらの作業でした。時間はかかりましたが、細部を疎かにせずに「美しく」仕上げていくことも、居心地のよい場を作ることに繋がる大切な要素なのだなあと感じました。

「タイヤガーデン」は、古タイヤを利用しています。黒いタイヤは熱を蓄えるので、作物の育ちを助けてくれます。生長とともにタイヤを積み重ねて土を足していけば、高さも自由に調整できるという利点もあります。

穴を掘って、キーホールガーデンの杭を埋めていきます。


タイヤガーデン作りも進んでいます。


みんなの力が合わさって、どんどんカタチになっていきます。

キーホールガーデンとタイヤガーデンの形ができあがったら、そこへ土を入れ、種を蒔きました。一般的に畑というと、1つの畑全面で同じ作物を育てているというイメージがあるかもしれませんが、パーマカルチャーの菜園では、多種類の作物を育て、森のような多様性が生まれるようにデザインしていきます。この日蒔いた種も様々です。

金町小蕪、グリーンマスタード、レッドマスタード、ほうれん草、ルッコラ、京水菜、スイスチャード、紅法師水菜、コリアンダー、ラディッシュ、飛騨紅蕪、黒大根、新黒田五寸人参、ビタミン大根、紅化粧大根、日野菜蕪、津田蕪など。

キーホールガーデンでの種蒔き

ところで、この「種を蒔く」という作業、日本語としては誰もが理解できるのに実際やろうとすると「はてどうしたものか・・・?」となりました。種の量、深さ、間隔、分からないことだらけ。アメちゃんやキヨさんに色々教えてもらいながら、種蒔きをしていきました。おとなにとっても発見と学びだらけの作業です。

そして最後はマルチ。もともとこの場所に生えていた草を刈って、その草で土を覆っていきます。こうすることで、土の水分が保たれ、雑草が生えにくくなり、分解の過程で土に養分が供給されるといった効果があります。

キーホールガーデンへのマルチ

今日の作業はこれでおしまい。普段は土に触る機会がないというPTAのお母さんたちが、「家でもやってみようかな!」と楽しそうにしていたのが印象的でした。

〜つづく〜

文 : 福井千裕
写真 : Yuko Agawa、福井千裕

福井千裕

「娘が生まれた。1年して、3.11が起きた。」
1年に2度、価値観のひっくり返る音がした。大きな不安の中で育児休暇が終わり、職場復帰したと同時に「わらしこ保育園(東京都府中市)」と出会う。これがまた価値観を大きく変える。
自然の中での遊び、安全で豊かな食、季節感のある丁寧な生活、周囲のおとなの気長な見守り、そうした環境に子を預け育ち合う中で、豊かさの意味を見つめ直し、自らの暮らしも少しずつ変えていく。
そして娘が保育園を巣立った年、藤野の「パーマカルチャー」塾に飛び込み、その哲学に深い感動と大きな希望を感じる。未来の世代へ希望を繋げていけるよう、パーマカルチャーを実践していきたいと思っている。

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